epi の十年千冊。

アクセスカウンタ

zoom RSS 19) 『巴』 松浦寿輝

<<   作成日時 : 2006/07/09 09:45   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

松浦寿輝さんの長編。
東大中退のチンピラが、謎めいた老人と朋絵という名の少女と出会い、奇妙な誘いに乗るうちにこの世の埒外に足を踏み出して…というお話。

この人の書くものは文学的にどうこうという以前に単純に読んでおもしろい。この長編はミステリ的な謎解きの要素があり、それが最後まで一気に読ませる魅力のひとつになっている。加えて、怪しげな世界の展開。おぞましい性と暴力。なぜかデビッド・リンチの映画を連想してしまった。

この小説には何もかもぶちこんだ、と作者が自作について書いているのを読んでいたので大いに期待して読み始めたのだけれど…うーん、いまひとつかなあというのが読み終えたときの感想。いまひとつといったって、もちろん質は高い。ただ、短編を読んだときに得られるカタルシスが今回はまったく得られず、それがとても残念だったのだ。

また、ミステリ的な小説なのに、十分に謎が明らかにされないというのも不満。第二部の途中、病院の章のあたりから一気に物語は加速していき、ここから夢中になって読み耽った。そして「サカサトモエ」なる語がでてきたときにはわくわくした。何がどうなるのだろうと。しかしページ数が残り少なくなってくるにつれ、残された謎の多さと比較して嫌な予感が…案の定というかなんというか、あの終わり方。うーむ。

ただの脇役かと思った寛子が重要人物だったり、老人や朋絵の正体など意外性には感心した。「サカサトモエ」というのもおもしろい。でもねえ、これじゃ説明不足なのでは? 結局篝山は「サカサトモエ」を描いて何がしたかったのか、何が起きたのか。そこが最大の関心の的だったのに「ぐるぐる回って云々」ではちょっと。
寛子がどうなったのかも知りたかった。朋絵も、実は殺されているのかもしれない。

丸谷風の「意識の流れ」の文体やら奇妙な時間論やら、ほかにもいろいろ仕掛けがあるのかもしれないが、読み終えた感想は「まあまあ」といったところか。ただ恐怖の描き方は見事だと思った。

足し算引き算を繰り返したうえで自分にいちばん利の大きそうな途を選んできたつもりでいたけれど、世の中のすべてはわたしの使っていたのとはまったく異質な演算規則で動いていたのではないかと考えることの恐怖。


自分の物差しの及ばない、届かない世界の歯車に知らないうちに巻き込まれていることの恐怖。グロテスクな描写以上にそれが印象に残った。


(2001年 新書館)

画像

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
19) 『巴』 松浦寿輝 epi の十年千冊。/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる