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zoom RSS 42) 『「性愛」格差論』 斎藤環+酒井順子

<<   作成日時 : 2006/08/30 00:49   >>

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巷では格差論議がさかんですが、どの程度信じられるものやらわたし自身は半信半疑です。少なくともわたしの周囲に目に見えるかたちでの格差というものはないように思うのですが。「執拗な予言はその事態を確実に招来する常套手段である」とは英国の作家ギッシングの言葉だったと思います。まあ今の時代にギッシングをもちだすなど時代遅れも甚だしいでしょうが。
格差というのは左右ではなく上下の差なのですね。

さて、本書は性愛における格差を、精神科医の斎藤環さんと、『負け犬の遠吠え』の作者である酒井順子さんが、気の置けない雰囲気でゆるゆる対談しています。
性愛における格差といっても、一言でいってしまえば異性にモテる人間とそうでない人間がいるというだけのことなのですが。この問題を、

「負け犬」(狭義には30代以上、未婚、子なしの女性)
「おたく」(サブカルチャーに熱中する人)
「ヤンキー」(斎藤さんによると広義のヤンキーは日本人の七、八割を占めているそうですが…)
「腐女子」(やおい愛好者の女性)
の立場から考察していきます。
(※「負け犬」「おたく」等上記の呼称に不快感を覚える方がいらっしゃるかもしれませんが、これは本書の定義なのでそのまま使いました。わたしも個人的に、「負け犬」やら「パラサイト・シングル」等の呼称は非常に不快に感じています)
まあ、そこそこ面白かったです。たとえば、

愛情の形式には男女で違いがあり、女性が「関係」を重視するのに対し、男性は「所有」したがる。

ケータイがあるがゆえに今の若者たちは自分の「人気度」を常に意識せざるを得ない。ケータイは今や社交能力を示すシンボルである。

「萌え」の資質はリビドー的なもので、これは人間の根幹に関わる問題だから交際が始まったり(『電車男』のように)結婚したからといって容易に変わる問題ではない。

負け犬は連帯するが、ニートやひきこもりは連帯しない。男性は微妙な差異を見つけては、「俺の方が上だ」「お前が下だ」と比較したがる。


ひとつ思ったのが、お二人は対談中、やたらと80年代に触れるのですね。「バブル的な感性は根強く残っていると思う」という斎藤さんの意見は分かる気もしますが、それにしてもなぜ80年代なのか…と思ってお二人のプロフィールを見たら、ちょうどその時期が青春期にあたっていました。斎藤さんは61年生まれ、酒井さんは66年生まれ。
皮肉ではなしに、人間は青春期に呼吸した空気を忘れられないものなのかもしれません。わたしの世代の社会学者なり精神科医なりが、この先、時代の気質を分析することがあるとしたら、やはり90年代を切り口にしていくのかな、とも思いました。(70年代後半生まれです)
キーワードは、バブル崩壊、テレビゲーム、Jリーグ、ポケベル→PHS→ケータイ、ブルセラ・援助交際あたりがあてはまりそうだなあと。

わたし自身は特別モテるわけでもなく、萌えの素養はなく…しかし、ハイカルチャーにもサブカルチャーにも愛着はある、という中途半端な人間です。また、美術館でモネを鑑賞するのもマンガ喫茶に入り浸るのもどちらも個人の趣味の問題であって、それが迷惑でないなら他人がとやかく言うことではないのでは、とは思います。

性愛の格差ということで、ミシェル・ウエルベック的な内容もあるのかと思ったのですが、むしろ逆に、「お金もちだからといってモテるとは限らない。モテというのはお金がなくても、容姿に難があっても、工夫次第で得られる非常に公平な富なのかもしれない」ときれいにまとめられてしまいました。ううむ。そうなのでしょうか。となると、モテないのは努力の足りないせいだということで、ますます一部の人たちは不当な屈辱に甘んじなければならなくなると思うのですが。何事にせよ、逃げ場はあったほうがよいだろうというのがわたしの意見です。「アレが悪いんだ! アレのせいだ!」と言えるような。それがないと真面目な人を精神的に追い詰めるだけの結果になってしまうと思うのです。

ともあれ、萌えもモテもどっちだってよいのではないでしょうか。いっそ両方だってよいでしょう。どちらかを諦める必要はない。でも何より重視されるべきは個人の幸福です。それがないと社会の幸福もたぶんないだろうと思うのです。
(中公新書ラクレ)

4121502140「性愛」格差論―萌えとモテの間で
斎藤 環 酒井 順子
中央公論新社 2006-05

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