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zoom RSS 36) 『旅する哲学』 アラン・ド・ボトン

<<   作成日時 : 2006/08/11 00:49   >>

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私事ながら今月末、四日か五日ほど東北地方へ旅行に行くことにした。やや遅めの夏休みというわけ。それでというわけでもないのだけれど、ちょうどこの著者の邦訳は本書以外ぜんぶ読んでいたし、よい機会かもしれないと思いAmazonのマーケットプレイスで新品が格安で出品されていたのもあって購入。

ド・ボトンを初めて読んだのは『プルーストによる人生改善法(1999年 白水社)』で、わたしは『抄訳版 失われた時を求めて(2002年 集英社文庫)』を読んだあとプルースト関連の本をいくつか読んでいるうちに出会ったのだった。この本はべらぼうに面白く、生まれてはじめて読書をしていて面白さのあまり目が冴えてしまい眠れなくなるという体験をした。その後、こういうのを書く人ならと『恋愛をめぐる24の省察(1998年 白水社 絶版)』を読み、当時ちょうどわたし自身苦しい恋を追いかけている最中だったのもあってこれも夢中になって読んだ。

しかし邦訳が集英社から出るようになってからは少し距離をおくようになった。なんだか甘くなったというか、やけに読者に媚びはじめたような気がしてきたので…。ただこれはわたしの偏見であって、並より内気な哲学者のやさしさがそういう方向へ向かうのは自然なことであったかもしれない。訳者が畔柳和代さんから安引宏さんになって読みにくくなったというのもある。

前置きが長くなってしまった。
本書の原題は『THE ART OF TRAVEL』、旅の技術ということで著者の読者ならお馴染みであろう博識と知性とユーモアを駆使して「旅を味わうための技術」を学んでいくというもの。

人はなぜ旅をするのか。わたしの場合だと非日常を求めてということになるのだろうか。あと孤独を満喫したいというのもある。
「いずこへなりと! いずこへなりと! この世の外でありさえすれば!」と叫んだボードレールほど矢も盾も堪らぬ衝動に駆られることはないけれど、ああ、このまま何もかもうっちゃって遠い遠いところへ行ってしまいたいなあと思うことはままある。

本国では現代のモンテーニュといわれることもあるらしい著者の旅の経験を、過去の人々の旅(ヨブやフローベールやフンボルトやゴッホやラスキンなど)と照応させながら哲学的に考察していく。
たとえば、地上の楽園とイメージしていたバルバドス島を訪れたものの心配事やら連れと喧嘩してしまったため楽しめなかったという経験から、幸福の鍵は物質的なものではなく頑固なまでに心理的なものなのだという結論を導き出したり。
ほかにも、雑誌やパンフレットの類が引き起こす旅先の誤ったイメージや、圧倒的な自然の崇高さを前にしたときの喜びや、風景の美を自分のものとするための方法などなどが考察される。

著者の意見は『プルースト〜』のときからあまり変わっていないので退屈なところもあったけれど、なかなか楽しめた。とくに最後の、グザヴィエ・ド・メーストルなるフランス人による、部屋から一歩も出ないで楽しむ旅行術というのはいつもながらのド・ボトン哲学なのだけれど、よかった。

ラスキンの旅行術も素晴らしいと思った。
(ラスキンの)一家は馬車を仕立てて、ゆっくり旅をした。日に五十マイルを越えることはけっしてなく、数マイルごとに馬車を停めて景色を堪能した。

そんなラスキンの主張。
ラスキンは人々が細部に気付くことがめったにないことに心を痛めていた。現代の旅行者の見えなさかげんと慌ただしさを嘆いていた。まして、列車を使って一週間でヨーロッパを周遊したと(最初にこのツアーを組んだのはトーマス・クック社で、一八六二年のことだが)得意になるなんて、論外だった。

一時間に百マイル移動したところで、われわれはひとかけらも、強くも幸福にも賢くもならない。世界はつねに、どんなにゆっくり歩いても、人が見ることができる以上のものがある。速く移動したところで、よりよく見ることなどできはしない。


まったり旅行のすすめというか、せっかく来たのだからあそこもここも行かなくちゃとなってはこれはもう労働である。そんなバイタリティのない当方にはうんうんと頷けもし、頼もしい同志を得たような気にもなる。

移動のポエジーが感じられる表紙のエドワード・ホッパーの絵もよい。わたしも羽田空港へ何の用もなく出かけて離着陸する飛行機を眺めて半日過ごしたことがあった。ホッパーはわたしの好きな画家の一人でもある。
(ホッパーの絵はこちらから見ることができます)

本書のいくつかの箇所は手帳にメモして旅に持っていこうと思う。
でもいちばん印象に残ったのは訳者あとがきに引用されている、
ずば抜けた刺激と旅とセックスは、わたしたちが失望すること最も多い快楽

という言葉だったりする…
(集英社)

4087734072旅する哲学―大人のための旅行術
アラン・ド ボトン Alain De Botton 安引 宏
集英社 2004-04

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