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zoom RSS 52) 『性的唯幻論序説』 岸田秀

<<   作成日時 : 2006/09/26 17:23   >>

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非常に面白く読んだ。
「人間は本能の壊れた動物であり、本能の代わりに幻想に頼って生きている」という唯幻論を唱える岸田秀さんが、人間の性について語る。
はじめて聞くところがかなり多く、目から鱗が落ち続けた。なんといったって、いきなり「すべての人間は不能である」から始まるのだから。

考察されるのは日本と、日本に影響を与えた西欧近代の性。
性におおらかだった日本人がなぜ処女を重んじるようになっていったのか。どうして「女性には性欲がない」だとか、「自慰は健康を害する」だとかとんでもないことがいわれるようになっていったのか。この過程を追っていくのは面白い。
売春についてもずいぶんとふれられていて、「売春は経済の問題ではなく幻想の問題だと思われる」というところは興味深い。売春には中毒性があり、足を洗ったり、結婚したりしても経験者(?)の7、8割はまた戻ってくるのだという。金銭とは別の問題も絡んできて、それが中毒になるのだ。

西欧で「神が死んだ」のち、神に代わる価値として恋愛が前面に出てきたというのは驚いた。そもそもキリスト教ほど性に対して敵対的な宗教はなかった。性=罪なのだから。そのキリスト教が力を失うにつれ価値観が変化していき、信仰の対象だった処女マリアはいつしか世俗化して「清純な乙女」という幻想になっていくのだが、これはそのまま資本主義の発展の歴史でもある。「女には性欲がない」ということがいわれるようになったのもこの頃。性を完全に男のためのものとして男たちを囲い込み、女が欲しいならどんどん働いて金を稼いで、売春宿なり有利な結婚なりをしろと煽られ、それが資本主義の社会を発展させる車輪となっていったのだ。マックス・ヴェーバーの論を敷衍して、著者はこう言う。

近代人も働くためには、かつての「神のため」に優るとも劣らぬぐらい強い働く動機となる目的が必要ではなかろうか。それが「恋のため」「セックスのため」ということだったのではなかろうか。実際、近代の恋愛は、恋人を理想化し、崇め、恋人を得るために生命をも賭けることがあるぐらいで、これが、かつての神への信仰が崇拝対象を入れ替えただけに過ぎないものであることは、ちょっと考えればすぐわかるであろう。だからこそ、かつて神のために働くことができたのと同じように、恋のために働くことができるのである。


なるほどたしかに『ウェルテル』のロッテにせよ、『神曲』のベアトリ−チェにせよ、崇拝対象として極端に理想化されて描かれているものなあ。

日本にもこの価値観が入ってきて、女性は結婚するまでは処女を守れという妙なことになる。が、これを笑うのは現代人の思い上がり。当時(昭和中期あたりまでか?)女性は自活能力を持たず、生きていくためには結婚しか道がなかったのだ。(『氾濫』のヒロインもそう)この頃の男と女の性をめぐる騙し合いのようなやり取りは読んでいて気分が悪くなった。結婚前に、つい情にほだされて処女を失った女性がその後たどる運命はあまりに悲惨だ。
当時は結婚がひとつの取引、売春に等しいものだった。われわれが当時の人たちを笑うにしても、その人たち(主として女性)の犠牲なくして今はなかったのだと思うと、自分などはただ彼女たちに同情するばかりである。

本書の終わりのほうで「性交は趣味である」と著者は喝破する。本書を読んでいけば、この言葉に頷ける部分があると思う。最近、若い男の性欲が弱くなったとか言われているようだが、性交も旅行やテニスやゴルフのように趣味なんだからと思えばべつになんということもない。

要するに、(略)セックスをしたいときに、自分と何らかの好意的関係にあってセックスの趣味も共通し、同じようにセックスをしたい相手とセックスをするのがいちばんいいと思うが、どうであろうか。性交は、何度も言うように、本能ではなく趣味であるから、そして、趣味には一般基準はないのだから、一年間や二年間一回もしなくても、毎日欠かさずしても、一日に何回もしても、間違いではないし、少な過ぎるとか多過ぎるとかいうことはない。それ以上、セックスについて言うことは何もない。


性は人間が生きるうえで根幹に関わってくる問題。本書はかなり面白いので(著者の文章はユーモラスで楽しい)おすすめ度は高い。

わたしは本書を読んでいて、自分の価値観が近代以降フロイド以前のものだと知り少しショック。フロイドも読まねば……

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
 岸田秀さんはフランスに留学してこられた人で、フロイト派といっていいと思いますけど、‘オナニズムの秩序’ということを言っておられたことがありました。オナニーこそが本当のセックスだというのですけど、そんなのあまりにもひどいとおもいませんか?
ひよどり
2006/11/11 00:00

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