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zoom RSS 49) 『ベストセラーの構造』 中島梓

<<   作成日時 : 2006/09/16 18:39   >>

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「活字離れ」「活字文化の衰退」といわれて久しい。
わたし自身はあまりそうは思わない。今の50代、60代が若い頃だって、習慣的に本を読む人は少数だったのではないか。むしろ、通信技術が発達して欲しい情報を得ることが容易になった現在の若者のほうが、それ以前の世代の若い頃よりずっと本を読んでいるのではないか。
また、新訳のプルーストやカフカやジョイスが文庫で読める時代が、本当に「活字文化の衰退」している時代なのだろうか。

本書は、ベストセラーという社会的現象を通して、われわれの所属しているこの現代が(この現代とは執筆時の昭和57年だが)いかなる時代かを考察する。

「みんなが読んでいる本」を読むことで、自分も共同体の一部なのだと実感し、それによってセルフイメージを確立する「知的中流階級」が、何万部と売れるベストセラーの読み手である、というのが著者の主張。そこからさらに社会論的な方向へと進んでいく。四半世紀前に書かれた本だが、思っていたほど違和感はなかった。ただ、「中流」の幻想はもはや崩れ去ろうとしているだろう。

わたしは著者と同様、ベストセラーが必ずしも下らない本だとは思わない。100万部売れたら低俗な本で、数百部しか売れない本が内容豊かだなどというのは無邪気な幻想だろう。
わたしはベストセラーの本も、今となっては絶版となっている古典も、それが自分の興味をひく内容であるなら読む。思うに、古典には古典の機能があるように、消費される本には消費される本としての機能があるのではないだろうか。

「現在は、「活字離れ」の時代なのだそうである」
から始まった本書は、
活字文化は、衰退などしておらぬし、若者は活字離れしてなどいない。それどころか、私は、こんなに正しい方法論ひとつ与えられておらず、選択眼の訓練もできてないのに、こんなにも辛抱づよくて、かつ熱っぽい顧客たちを、こんなにもプロたちが長いこと裏切りつづけ、失望させつづけ、しかもなお読者が活字離れしないでいてくれる、ということに、送り手の一人として忸怩(じくじ)たるものがあるのだ

という結論で終る。
そして現在の出版をめぐる状況を招いた原因の半分は、
多すぎる雑誌にだらだらとルーティンな作品を垂れ流しつづける作家たち、時代から目をそむけて権威主義の夢を追う文壇、そしてつぎつぎと新人をもとめ、漁り、本を出したさに焦るあまりまだ世に問うべきでない段階の青田刈りをつづけてゆく出版社と小説への愛情より雑誌のノルマの優先する編集者なのである。


この、作者、編集者、出版社という送り手側への叱責は、著者自身が実作者であるがゆえの自戒も含むのだろう。著者は――わたしもプロフィールの写真を見るまで気付かなかったが――『グイン・サーガ』の作者(栗本薫)だったのだ。
「世の通念とは逆に、「純文学」には必ずしも技術と修練は必要とされぬけれども、物語をかたるには、語り部としての技術なしではすまされぬ」という箇所などは、素晴らしい物語の語り部である著者の実感がこもっているように思えた。

それにしても2004年の出版点数約8万点というのには驚いた。わたしなんて一生の間に1万冊も読まないと思うのに、その8倍の量の本がわずか一年間で出版されているとは…。まさに洪水。想像もつかない量だ。

その点に関して著者はこう言う。
われわれが決して忘れてはならないのは、「多くの人が本を読める時代は、そうでない時代より確実によい」ということである。そしてまた、「さまざまな種類の本の中からえらべる時代は、そうでない時代よりずっと幸せである」ということである。

たしかに一面ではそうである。
そうではあるが…そのうちの大半の本が人の目にふれることなく初版のみで消えていくというのは、なんだか暗い気分になる。と思ったら本書も絶版だった。なんて皮肉な。

ベストセラーの構造
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