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zoom RSS 『ある島の可能性』 ミシェル・ウエルベック

<<   作成日時 : 2007/03/27 12:07   >>

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ウエルベックの最新邦訳作。
現代人の閉塞感をSF要素を絡めて描いた、『素粒子』の延長線上の物語。小説は現代西欧で生きるある男の自伝と、彼の遺伝子を継承した未来のネオ・ヒューマンによる、自伝への注釈とで構成されている。

わたしがウエルベックに惹かれる最大の理由は、彼が、(メディア、あるいは著者にならっていてばエロチック広告産業に)絶えず欲望を刺激され続けながら、決してそれを得ることのできない駄目男のジレンマをよく描いているところにある。今度もそれを期待して読み始め、ある程度は満足したものの、今作ではよりSF的な側面が強調されているため、『素粒子』と比べてしまうといくぶん物足りなかった。なにせ壮大な物語であるから、もう少し分量を多くしてとことんこの世界を書ききってほしかった。

主人公のダニエルはコメディアン。彼が深く関わった二人の女性との感情生活と、「エロヒム教団」という遺伝子改造による不死の研究をしている新興宗教団体(この教団には実在のモデルがあるらしい)の発展の歴史が小説の主軸。「人生に絶望している、しがない中年男の僕を受け入れてくれる、若くて美しくて性の歓びを与えてくれる(金髪の)ヒロイン」がまた登場したのには笑ってしまった。ウエルベックは少し性欲が強すぎるのではないかしらん。あるいは性について考えすぎて、必要以上に自分の性欲を肥大化させてしまっているのではないかしらん。
どちらかというと本編より、エピローグで書かれる、戦争によって崩壊した2000年後の世界の情景が印象に残った。

本作では、主人公の孤独の慰めとしてウエルッシュ・コーギーのフォックスが登場する。人間同士の愛に絶望しているらしいウエルベックが動物に目を向けたのは自然だろう。動物と人間との愛情については、ミラン・クンデラもすぐれた一節を書いている。
犬への愛は無欲のものである。テレザはカレーニン(epi注・犬の名前)に、何も要求しない。愛すらも求めない。私を愛している? 誰か私より好きだった? 私が彼を愛しているより、彼は私のことを好きかしら? というような二人の人間を苦しめる問いを発することはなかった。愛を測り、調べ、明らかにし、救うために発する問いはすべて、愛を急に終わらせるかもしれない。もしかしたら、われわれは愛されたい、すなわち、なんらの要求なしに相手に接し、ただその人がいてほしいと望むかわりに、その相手から何かを(愛を)望むゆえに、愛することができないのであろう。
『存在の耐えられない軽さ』

わたしもそうだが、犬が大好きな人間には、このクンデラの書いていること、ウエルベックが犬を人間のよきパートナーに選んだことは非常に腑に落ちる。

もうひとつ。
本文のページ上部の「ダニエル1−1」「ダニエル24−5」等の章の見出しを読んでいて、ふと聖書を連想したのは考えすぎだろうか。ダニエルイザベル(イゼベル)エステル、主要登場人物のこの三人の名前はみな聖書にある名前です。ダニエルとエステルにはそれぞれの名前がついた「ダニエル書」「エステル記」がある。小説の主人公ダニエルがコメディアンであること、宗教が本作の重要なテーマであることを思うと、意外と的外れな連想ではないかもしれない。ウエルベックは本作を預言書のパロディ形式で書いてみようと思ったのではないか。

「ダニエル書」は、天使めいた超存在が世界の終りをダニエルに告げるところで終る。以下はそのうちの一部。ウエルベックのこのSF小説の内容と通じるものがありはしないだろうか。
「その時、大天使長ミカエルが立つ。
彼はお前の民の子らを守護する。
その時まで、苦難が続く
国が始まって以来、かつてなかったほどの苦難が。
しかし、その時には救われるであろう
お前の民、あの書に記された人々は。
多くの者が地の塵の中の眠りから目覚める。
ある者は永遠の生命に入り
ある者は永久に続く恥と憎悪の的となる。
目覚めた人々は大空の光のように輝き
多くの者の救いとなった人々は
とこしえに星と輝く。
ダニエルよ、終わりの時が来るまで、お前はこれらのことを秘め、この書を封じておきなさい。多くの者が動揺するであろう。そして知識は増す。」


4047915432ある島の可能性
ミシェル・ウエルベック 中村 佳子
角川書店 2007-03

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