epi の十年千冊。

アクセスカウンタ

zoom RSS 『ウサギの本』 松浦寿輝(文) 米田民穂(絵)

<<   作成日時 : 2007/03/31 15:07   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 0

松浦寿輝さんと米田民穂さんによる絵本。絵本だからといって侮るなかれ。子どもが読んで、はたしてこの味が分かるかどうか。おそらく、ある程度年齢を重ねた大人のほうが、より深くこの絵本の哀しさと可笑しさが理解できるように思える。図書館も書店も、これを児童書コーナーに置いてはいけませんよといいたくなる。

気楽な独身生活を謳歌している<私>のアパートにある日、年とったウサギがやって来て、押入れの中で古本屋を店開きしてしまう。はじめのうちは図々しいウサギに腹を立てていた<私>だが、一緒に暮らしていくうちに少しずつ情が移っていく。

非常にユーモラスでありながら、同時に不思議なぬくもりを感じる物語になっているのは、もちろん米田さんの絵によるところも大きいのだろうけれど、松浦さんの、読者に語りかけるような文体によるところも大きいだろう。読むことが、聞くことにもなっている。
ウサギの店主と読書家のモグラが、小さな身体を寄せ合って本を読みながらひそひそ囁きあっている場面や、一冊の詩集をめぐるウサギの回想の場面は気持がしんとなる。こういう物語はソファにゆったり腰掛けて、コーヒーでも飲みながら、世知辛い浮世の何もかもをきれいに忘れて、どっぷりと浸って読み耽りたい。といっても、かなり短いお話なのだけれど。

松浦さんによると、本書は実話に基づいた物語らしい。自分の部屋に、ある日突然ウサギがやって来て、こちらの反対に聞く耳をもたず強引に古本屋を開いてしまう、そんなことだって、世の中にはきっとあるでしょう。

こういったことはみんなもうずいぶん昔、私がたいそう若かったころの話です。
あれから私は上司とうまく行かなくなって役所をやめ、何度か仕事を変え、石油採掘の技師になってアラビア半島の方の暑い国に行ったり、木材やパルプの買いつけのためにベーリング海の沿岸できびしい冬を過ごしたり、さまざまな珍しい経験を積みながら、一生懸命に生きてきました。考えてみれば本当にいろいろなことがありましたが、今日このごろになって、もう若いころみたいにがむしゃらに仕事をして前へ進んでゆこうという気もあまりなくなり、休みの日には電車に乗って郊外の川べりまで散歩に出かけ、折々の季節の香りを運んでくる優しい川風に吹かれてぼんやりしているのが何よりも愉しいといった年齢になってみますと、ウサギのお爺さんと同居したあの一冬の遠い遠い思い出が、何かの拍子にふと甦ってくることがよくあるのです。


子どもより、大人のための絵本。
(新書館)

4403032052ウサギの本
松浦 寿輝 米田 民穂
新書館 1996-10

by G-Tools


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
なるほど(納得、参考になった、ヘー)

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
『ウサギの本』 松浦寿輝(文) 米田民穂(絵) epi の十年千冊。/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる