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zoom RSS 松浦寿輝『川の光』完結。

<<   作成日時 : 2007/04/23 20:16   >>

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本日、読売夕刊連載中の小説『川の光』が完結した。
松浦寿輝先生、島津和子先生、おつかれさまでした。素敵な物語、それを彩る素敵な絵をどうもありがとうございました。

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終ってしまうと、あっという間に思える。この間、毎日をほんとうに楽しく過ごさせてもらった。これまで、東京を舞台にした耽美で官能的な、幻想小説ふうの作品が多かった松浦寿輝さんが、自然の中で生きるネズミをはじめとする小動物たちの物語を書くというのを知ったときには、はじめ少し意外な気もしたのだけれど、エッセイ『散歩のあいまにこんなことを考えていた』の中に、グレーアムの『たのしい川べ』や、ロフティングの『ドリトル先生』シリーズや、アーサー・ランサムについて愛情をこめて書いてあるのを読んでいたので、違和感はすぐに消えた。そして、どんなお話になるのだろうとわくわくしたのを覚えている。

むしろそのとき以上に意外だったのが、今日の最終回だ。もしかして…続編が? いや、これではあまりに単純な読み方になってしまうだろうか。でも、本音をいえばもっともっと、タータやチッチ、お父さんをはじめ、タミーやグレンやブルーやドラムたちやスズメ親子やモグラ一家たちのお話を読んでいたかったので、もしも続編が書かれるのであればとても幸せだ。また、新聞の投書を見ると評判もかなりよかったのではないだろうか。単行本になるときは(なりますよね? 中央公論新社から)加筆されているといいなあ、とかわがままなことも実は考えていたりする。

この小説にはこれまでの松浦作品ではあまり見られなかった直接的なメッセージ性が強くて、その点が印象に残っている。野暮な物言いをすれば、「生きていくうえで大切なこと」について決して声高にではなく、さり気なく書かれている箇所が多かったような気がしている。たとえば、ロシアンブルーのブルーに助けてもらったタータが川辺で瀕死のスズメの子を見つける場面はこう(81話)。
あの妙ちきりんな猫のおばちゃんがいなかったら、家で休ませてくれなかったら、餌を分けてくれなかったら、ぼくは死んでたかもしれない。命を救ってもらったことのお礼は、ブルーに言うだけでは足りないんじゃないのか、とタータは思った。別の誰かの命を救うことで、借りを返す。そうやって貸しと借りが順ぐりに回って、この世は動いてゆく。そうなんじゃないかな。

わたしはこの文章を読んだとき、不覚にも泣きそうになった。

そして、タータたちが雪嵐の中で立ち往生し、絶体絶命の、ほとんど死の一歩手前まで追い詰められた210話。ここで<わたし>が語る箇所こそ、この小説のもっとも素晴らしい箇所だろう(この回の島津さんの絵も最高だった)。
ネズミであろうと何であろうと、生命というものはそれ自体、一つの奇蹟だからだ。宇宙の開闢以来経過した気の遠くなるような歳月、宇宙の終焉までにこれから経過するであろうさらにさらにとんでもなく長い長い歳月――そうしたものと比べてみれば、ちっぽけなネズミがこの世で過ごす束の間の生の時間など、ほんのまばたき一つの出来事にすぎない。でも、その一瞬こそは、途方もない奇蹟なのだ。とうてい信じられないような驚異なのだ。


単行本になるときは(なりますよね? 中央公論新社から)島津さんの絵もすべて収録してほしいなあ。この絵も、この小説を大いに盛り上げてくれていたから。ないと寂しい。

ところで、ちょうどいま、わたしは松浦寿輝さんの新刊『クロニクル』と、リチャード・アダムズの『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち(上)』を読んでいる。後者は『たのしい川べ』とともに『川の光』の構想時に松浦さんの念頭にあったという小説。ちょうどいいタイミングで新訳が出たのが嬉しい。
一木一草 自然が主人公 松浦寿輝さん(本よみうり堂)

毎日の楽しみのひとつがなくなってしまったけれど、アダムズのおかげでしばらくは退屈しないで済みそうだ。

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