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zoom RSS 『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち』 リチャード・アダムズ

<<   作成日時 : 2007/05/01 00:16   >>

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驚いた。とんでもない大傑作に出会ってしまった。この歳になって物語の展開に手に汗握り、読みながら感情移入のあまり「頑張れ」だの「諦めるな」だの思わず語りかけてしまうような本に出会えるとは思ってもみなかった。凄いなあ、『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち』。こんなにも面白い小説があったのか。

「すごく恐ろしいことだ! 近づいてくる。ぐんぐんやってくる」
ある野原で平穏に暮らしていたウサギたちのもとに、宅地開発のため人間たちがやってくる。危険をいち早く察知したのは予知能力をもつファイバー。だが彼の言葉は一族の長には受け入れられない。ファイバーを信じる彼の兄ヘイズルは同志を募り、危険の迫る野原から脱出する。新たなる安住の地を求めて。これは小さなウサギたちの大きな冒険の物語なのだ。

四部構成。
第一部は、故郷を離れた11匹のウサギたちが捕食動物をはじめとする困難を乗り越えて、カウスリップの村に辿りつくまで。この村のウサギたちはとても豊かで、身の安全も守られているのに、幸せそうに見えない。ヘイズルたちはここで暮らそうと言い出すのだが、ファイバーは反対する。「なにかがおかしい」。やがて明らかになるこの村の秘密…。

第二部は、理想的な土地、ウォーターシップ丘陵(ダウン)に辿りついて喜ぶのも束の間、一行の中に牝がいないため村は一代限りで滅びてしまうことに気がついたウサギたちが牝を探しはじめる。やがて、離れた場所にあるエフラファという大きな村を知った一行は牝を数匹譲ってもらおうと使者団を派遣するが、数日後、彼らは瀕死の状態で帰還する。一体エフラファで何があったのか。

第三部は、一行の中でもっとも勇敢な戦士ビグウィグが単身エフラファへ潜入し、内部の牝たちと接触、脱走を企てる。エフラファは独裁者ウンドワート将軍の恐怖政治によって支配されている帝国。ビグウィグは計画の発覚を恐れつつ機会を窺う。知恵者ブラックベリの立てた計画は完璧なものだったが、決行の日は凄まじい雷雨になってしまう。ビグウィグは戦いで傷を負いながらも牝たちを連れてなんとかエフラファを脱出。この裏切りを知って激怒したウンドワート将軍は自ら最強のウサギ軍団を率いて脱走者たちを追いかける。雷雨の中の逃避行。悪天候で仲間たちと連絡がとれないまま走り続けるうちに、ビグウィグたちはとうとうウンドワートの軍団に追いつかれる。ああ万事休すか…と思われたまさにそのとき! 

そして第四部。
からくもウンドワートの追跡を振り切った一行だったが、今度はウォーターシップ・ダウンにエフラファの精鋭たちが侵攻してくる。勝ち目はほとんどない。「逃げよう」という声も上がるが、ヘイズルにはようやく見つけた安住の地を離れる気はない。防衛作戦を立て、最後の戦いに臨む。そして…。

個性的なキャラクターが活躍する、わくわくどきどきの冒険物語として夢中になって楽しめるのはもちろん、さらに著者アダムズはウサギの生態に関する知識もふんだんに盛り込んでおり、これが小説に奥行きを与えている。また、著者は否定しているが、組織におけるリーダーシップという実際的な観点から読むこともできる。

登場するウサギたちは基本的に普通のウサギで、童話等でよくある、たとえば人間と意思疎通が出来るだとかいった能力は一切ない。異なる種族の動物同士ですら、会話は「共通語」を使わねばならないのだ。
ウサギにはウサギの言葉があり、これは地の文の中に当たり前に使われるので、読んでいていつの間にか自分までウサギになってしまったような錯覚にとらわれてしまうのがとても愉快。

本書は1972年に、すぐれた児童文学に与えられるカーネギー賞とガーディアン賞をダブル受賞している名作。しかし児童文学といっても子ども向けにやさしく書かれただけのものでは決してなくて、戦いの場面ではわりと残酷な描写もあるし、「殺すぞ」のやりとりもあるし、各章のはじめにあるエピグラフは聖書やアイスキュロスやシェイクスピアやドストエフスキーなど古典からの引用が殆どで、その一点からだけでも著者は必ずしも完全に子ども向けのつもりで書いてはいなかっただろうと思われる。もっとも、その作品が「本物」であるならば子どもでも大人でも読めば必ず楽しめるものなのであるが。

読んでいる最中、誇張ではなく本当に夢のような時間を過ごすことができた。これを読まずに死ななくてよかった、と思える最高の小説のひとつ。男性読者は勇猛果敢なビグウィグにきっと痺れるだろう。
「ヘイズル、もうちょっと待ってくれ。俺がやつらをくいとめる。ダンディライアンを置いてはいけない」
「俺の長ウサギが、この通路を守れと、俺に命令した。長ウサギが命令を取り消すまでは、がんばるのさ」
彼とウンドワート将軍の血まみれの死闘を見よ!(下巻はビグウィグがヘイズルを食っちゃっている気がする…)

神宮輝夫 訳(評論社)

4566015009ウォーターシップ・ダウンのウサギたち〈上〉
リチャード アダムズ Richard Adams 神宮 輝夫
評論社 2006-09

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4566015017ウォーターシップ・ダウンのウサギたち〈下〉
Richard Adams リチャード アダムズ 神宮 輝夫
評論社 2006-09

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[海外ア]ウォーターシップ・ダウンのウサギたち
ウォーターシップ・ダウンのウサギたち〈上〉 作者: リチャードアダムズ, Richard Adams, 神宮輝夫 出版社/メーカー: 評論社 発売日: 2006/09 メディア: 単行本 ウォーターシップ・ダウンのウサギたち〈下〉 作者: Richard Adams, リチャードアダムズ, 神宮輝夫 出版社/メー ...続きを見る
りつこの読書メモ
2007/07/07 22:56

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
わたしもこの作品が大好物です。 わたしの読んだのは大分前になるので、実はこの新訳が出て以来、これを買おうかどうしようか凄く迷っています。 表紙もすてきだし… やっぱり欲しい! 購入して再び楽しみたいです。
ユイー
URL
2007/06/03 20:54
>ユイーさん

こんばんは。
これは本当にいいですねえ。ここ何年かで読んだうちでいちばん気に入った小説かもしれません。ウサギを見る目が変りました。
文庫本で買おうかなと思っていたら、ちょうどこの新訳(改訳?)版が出ていたのでこちらにしたのですが、旧版と多少語句の変更があるみたいですよ。

>表紙もすてきだし…

いいですよね! ソフトカバーで手触りもとても気持いいです。大事にして、人には貸したくありません(笑)
epi
2007/06/03 21:41
読み終わりました〜。
とってもとってもよかった…。

すっかりウサギの気持ちになって読んでいました。
epiさんのこの感想を読まなかったらきっと手に取ることはなかったと思います。ほんとにありがとう!!

それからこちらの記事をリンクさせていただいてもよろしいでしょうか…?
りつこ
URL
2007/07/05 23:33
>りつこさん

あ、いまりつこさんのブログを回ってきたところでした^^
喜んでいただけたようでこちらとしても嬉しいかぎりです。実はわたしも松浦寿輝さんのエッセイを読んで知ったので偉そうなことはいえませんが…。
リンクはどうぞご自由になさってください。こんなんで役に立ちそうでしたら、もういくらでも。
epi
2007/07/06 19:46
初めまして。E.A.Poe(知のくずかご)と申します。
偶然「最強のウサギ」検索でこのページを見つけました。

>「俺の長ウサギが、この通路を守れと、俺に命令した。長ウサギが命令を取り消すまでは、がんばるのさ」
小生も、このセリフは大好きであります。如何に好きかは、URLをご参照ください。

--
なお、現在は小生のブログは開店休業中ですm(__)m。

それでは…。
E.A.Poe
URL
2007/09/07 22:16
>E.A.Poeさん

はじめまして。「最強のウサギ」で検索するとここに来れますか。し、知りませんでした…。

「知のくずかご。」にさっそくお邪魔してきました。そう、ウンドワートはまさにラオウですよね! わかります、わかります。なんて的確な比喩!
でもこの小説ではウサギたちは冒険したり戦っていたりしますけれど、本来のウサギは冒険心などなく、おとなしい(寂しいと死ぬ?)生きものなのですよね。ウンドワートみたいなウサギがいたら怖いですよねえ。ラオウウサギ(笑)あ、名称だけならなんかいてもおかしくないような気が…。
epi
2007/09/08 02:34

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