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zoom RSS 『銀色の恋人』 タニス・リー

<<   作成日時 : 2007/05/16 21:53   >>

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少女と美青年ロボットの切ないSFラブロマンス。しばらく品切れ状態が続いていたけれど、このたび「ハヤカワ名作セレクション」の一冊として新装版で登場。ふらっと寄った書店で表紙の絵につられてつい買ってしまった。

主人公のジェーンは16歳の少女。富裕層に属し、バリキャリの母親と二人で、物質的には何不自由ない生活を送っている。
ある日、彼女は友人と二人で出かけた先で歌を唄う美しい青年と出会う。彼は、エレクトロニック・メタルズ社が製作した人型ロボットのプロトタイプ、型番「シルヴァー」だった。ジェーンは彼をロボットと知りながら愛するようになる。
ジェーンは彼を「購入」するために金目のものをすべて売り払う。そして、娘を思いのままにコントロールしようとする母親のもとを逃れ、シルヴァーと二人、貧民街で暮らしはじめる。すべてを失ったが愛するひとを手にいれた。しかしその幸福も束の間、悲劇が二人を待っていた…。

この小説で描かれる未来世界では人間同士の愛情は絶望的なまでに空疎で不毛なものになっていながら、希薄な関係しか結べない人間たちはその現状に満足している。そんな中で、ロボットであるシルヴァーに寄せるジェーンの一途な思いはひときわ鮮烈であり、非常にアイロニカルでもある。人間たちは男女を問わずみな、美しいシルヴァーに魅了される。しかし、彼に愛情を寄せるのは一人ジェーンだけだった。心のないロボットであるシルヴァーはそんな彼女に対してどう反応するか、そして誰かを愛することで強くなっていくジェーンの成長の過程、このあたりが読みどころだろう。自分では何もできないマザコン娘の自立の物語として読むこともできる。

小説はジェーンの手記の形式をとっている。彼女の何気ない「自分語り」が、ときどき、かつてわたし自身も感じた覚えのある感情と重なって印象に残った。
おかしなことに、わたしは子ども時代、自分をいまよりおとなだと思っていた。


ときどききれいとか、魅力的とか言われることはあるが、自分ではよくわからなかった。わたしはむしろほかの誰かになりたいと思う。


“ひとり”はいまではあらたな意味を持っていた。まるで自分が半分に断ち切られたようだった。


全編が甘く切ないロマンティシズムに包まれている。人間と非人間の恋。しかもジェーンは愛するひとのために「没落」する。ある意味オーソドックスで、これで盛り上がらないわけがないだろうというストーリー。今まで一度も働いたことが、そもそもそんな必要などなかったジェーンが、生活のためにシルヴァーと一緒にある「仕事」をする場面、自分の殻を破って成長していく後半の場面は感動的だった。愛することで愛され、それによって自信を得て、自分の可能性を拡げていく――人間の「生活」とは、本当にはこうあるべきなのかもしれないなあとぼんやり思ったりもした。

歌人でもある井辻朱美さんの訳文はとくに違和感なく読めた。乱暴なようだけれど、この小説は女性が翻訳すべきだと思う。小谷真理さんの解説も理解の助けになった。今月末には、24年振りに書かれた続編『銀色の愛ふたたび』が邦訳出版されるらしい。

最後に、本編中でもっとも浪漫的で、もっともわたしが気に入った箇所を引用します。これは、シルヴァーがジェーンの前から去って行く場面です。
「あなたの明るさが憎らしいわ。おいていかれたら、わたしには何も残らないのに」
「全世界がありますよ」かれは言った。「それに、ジェーン」かれは部屋の戸口に立っていた。「忘れないでください。あなたは」かれは言いやめて、唇だけでその言葉をかたちづくった。「きれいですよ」


うわあ。うわあ。

井辻朱美 訳(ハヤカワ文庫SF)

4150116067銀色の恋人
タニス・リー 井辻 朱美
早川書房 2007-04

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