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zoom RSS 『父と子』 ツルゲーネフ

<<   作成日時 : 2007/06/27 23:46   >>

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トゥルゲーネフはいい小説を書く。あの奇跡のような『初恋』といい、この『父と子』といい。どうしてこんなにも浪漫的で、こんなにも優美なのだろう。読んでいて何度ため息をついたことか。ああ、本当にいい。

農奴解放前後(1860年前後)のロシアのある村を舞台に、旧世代(父たちの世代)と新世代(子たちの世代)の思想的相克を描く。主人公の若者バザーロフは道徳、社会、芸術における一切の権威を否定し、理性と論理と有用なものだけを認める「ニヒリスト」。信じるのは宗教ではなくて科学。彼は、旧世代が奉じたロマン主義や理想主義、あるいは弱々しい感傷などを冷笑する。そのために、旧世代の代表的人物の一人である貴族主義者パーヴェルと対立し、あげく決闘にまでいたる。

この小説の時代背景については訳者による解説に詳しい。
農奴解放という歴史的な転換期。旧世代の人物たちは、自分はもはや時代遅れなのだと諦めて新世代に未来を託そうとしたり、古い価値観を変わらず昂然と掲げたりしてそれぞれ生きている。
一方、新世代の人物たちは、ニヒリストとして旧来の価値観を破壊しようと考えたり、ニヒリズムに惹かれながらもニヒリストになりきれなかったりしてそれぞれ生きている。
新旧世代の対立と、和解の可能性。いつの時代だって、若い世代は年寄りの世代を古くさいだの時代遅れだのとあざ笑い、古い世代は若造どもの世代を不可解だの頼りないだのと批判してきた。そんなふうに同じことが延々と繰り返される世界では、新しいも古いも、結局は同じことのようにわたしには思える。いま新しいことも20年後には古くなる。誰もが時代の子なのだ。世代が変われば人間も変わる。でも、変わらない部分もある。たとえば――(ありきたりですが)人を思う気持とか。世代対立がテーマの本作にあって、終わり近くの二組の結婚式の場面は非常に象徴的だ。トゥルゲーネフはどちらの世代にも愛情と共感をこめて書いており、そこがこの小説のすがすがしさになっている。最後の一行を読み終えたとき、静かな感動が波のようにゆっくりと押し寄せてきて、胸が詰まった。

オリガ・モリソヴナの反語法』に、トゥルゲーネフの文章がいかに美しいかについてふれている箇所があった。工藤精一郎さんによる訳文も、きっとその片鱗を宿しているだろうと思われる実にきれいな日本語だった。

いまや忘れられつつある作家の一人かもしれないが、トゥルゲーネフは本当にいい。『猟人日記』、『ルージン』、『処女地』といった代表作をぜひ復刊もしくは新訳で刊行してほしいなあ。

ちなみに、トゥルゲーネフの『初恋』はわたしの最愛の小説です。わたしの感想は右往左往して何を言っているのか我ながら意味不明で恥ずかしいかぎりですが、要するに絶賛しているのです。
(新潮文庫)

4102018069父と子
И.С. ツルゲーネフ 工藤 精一郎
新潮社 1998-05

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
「初恋 」読みたくなりました。
他のも・・・。
ツルゲーネフの世界を味わってみたいと思います。
kon
2007/07/08 20:44
>konさん

こんばんは。坤さんですよね?
トゥルゲーネフはよいです、とても。古きよき小説というのか。あまり味覚には自信がありませんが、よく寝かせた上質の酒を楽しむような読書ができます。これから少しずつ追いかけていくつもりでいます。
epi
2007/07/09 00:20
>konさん

申し訳ありません。わたしの人違いでした。たいへん失礼いたしました。
epi
2007/07/17 00:57

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