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zoom RSS 『情熱紀行』 平林たい子

<<   作成日時 : 2007/06/09 18:36   >>

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なんだか浪漫的なテレビ番組みたいなタイトルですが、とんでもない。なんたって平林たい子ですから。甘くないです。しょっぱいです。モテない女子の苦悩をこれでもかと書いた凄い小説です。

自由主義経済が生活格差を拡大させたように、自由恋愛もまた恋愛格差を拡大させた。(ということにさせてください)モテる男女が恋愛をウハウハと謳歌する一方で、非モテな男女は隠花植物のように肩身狭くひっそり生きねばなりません。(ということにもさせてください)
しかし、顔がマズくとも金がなくとも話がつまらなくともファッションセンスが悪くとも、モテがすなる恋愛といふものを非モテもしてみたいのです。
本作はそういう非モテ女子である友子(25歳、電話交換所主事補、交際経験ナシ)が主人公のラヴ・ストーリーです。

小説は、友子とアパートで同居している良子の堕胎手術のため、二人で医院に向かうところから始まる。そこで二人は封建的な家庭で育てられた世間知らずのお嬢様、頼子を見かける。良子がろくでなしに孕まされたように、頼子もまた、賢しらな口吻で議論ばかりしている大学生、今井に孕まされたのだった。医院からの帰途、駅で苦しげにうずくまっている頼子を自分たちのアパートに連れ帰り、介抱しているうちに事情を知った友子は、今井と彼の友人である由利を呼びつける。修羅場になるかと思いきや、あっけらかんとしている彼らを見ていて友子は腸が煮えくり返るのだが、そのうちにどういうわけか由利に恋をしてしまう。しかし不器量な友子は相手にされない。彼女はラブレターを送ったあとで卑屈になって、求められてもいない送金までしてしまう。
悶々としてラブレターの返事を待つのに業を煮やした友子は自ら由利のアパートに乗り込み、白黒つけようとこう言い放つ。
(以下、引用部分はすべて新字体に変更しています)
「結論からうかがいましょう。私が由利さんとあれする資格があると思うんですか。ないというんですか。ざっくばらんで行きましょう。え? どうです」

この身も蓋もない告白に由利はたじたじ。同席した今井は、自分たちのグループ(学生運動めいた活動をしている)に金をくれれば考えてやると答え、友子は腕時計を売ってまでその金をつくる。

ところがどういう成り行きか、だんだん由利より今井のほうに惹かれていってしまう友子。あげく自分が本当に好きなのは今井だと思うようになるのだが、久々に会った今井は大学卒業を控え就職活動に奔走し、かつてのワルとは似ても似つかぬ俗物になっていた。幻滅する友子。

一方、頼子は今井に妊娠させられたのにも懲りず、今度は上河内という擦れっからしの青年実業家にまんまと騙され、またしても妊娠してしまう。おいおいアンタそれでいいのかとツッコミたくなる読者を尻目に、頼子は堕胎手術を受ける。その後始末を買って出るのはもちろん友子。アパートに手切れ金を持って来た上河内の使いの相手をしながら、彼女は、「これは『民主主義の行きすぎ』というやつなのだ」と悔し涙を流す…。


この小説でもっとも印象的なのは、非モテ女子友子の心理描写。恋をしたいのに男たちはカワイコちゃんばかり追いかけて、不器量なわたしには振り向きさえしてくれない、というルサンチマンがこれでもかと炸裂するのを、他人事と思えるあなたは幸福です。
「人はみんなそこに用意されている恋愛っていうものを使うだけなのよ。ところが私のは、恋愛というものの、種をまいて葉をのばして稔らせて、それを収穫して、それからやっと、それを使う順序になるんだわ」


女一人が一人ずつもっている相手を要するに私だって一人ほしがっているんだ。それが悪いのか――


「私もね、ラッシュアワーに、有楽町駅にぎっしり並んでいるサラリーマンを下の道路から眺めて、よく思ったもんだわ。あれだけ男がいるんだから一人ぐらいは何とかなりそうなもんだがなあ――なんて、ね。ところが、みんな、それぞれきまっちゃっているんだから、どうにもなりはしないのよ」


わたしはところどころで大笑いしながらも、友子が非モテの哀しみ、苦しみを訴える場面ではイタさに悶えずにはいられなかった。平林たい子のぶっきらぼうな文章は、ときにぞっとするほど陰惨にもなり、著者のルサンチマンを垣間見た気分にもなった。しかし、わけても素晴らしいのは、女の心理を実に現実的に描いているところだろう。甘い浪漫的な要素など微塵もない。さんざん男に弄ばれた頼子は、病院で医師と対峙して、これまでの自分の行動を回顧しながらながらこう独白する。
不潔だからこそ、自分はそもそも惹かれて行った。
女を美しいもの、美しい行為しかしてはならないものときめてかかっているものに対する見せしめとして。


やたら女を理想化したがる愚かな男たちを哄笑するかのようなこの台詞。これを「お嬢様」にいわせているところが怖い。
非モテな少年少女、また女に過剰な幻想を抱きがちな男性諸君にはぜひ読んでいただきたい小説です。「恋愛結婚」併録。
(講談社)

この小説に興味をもたれた方は、わたしも参考にしています「非モテの文化誌」の平林たい子特集もご覧ください。
→第9回 なぜ処女はワルにうっとりしてしまうのか――平林たい子の巻(後編)

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