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zoom RSS 『ミッドワイフの家』 三木卓

<<   作成日時 : 2007/06/13 00:02   >>

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平林たい子の『情熱紀行』が非モテ女子の悲哀を描いた傑作なら、三木卓さんによる本書収録の「炎に追われて」は非モテ男子(というか童貞)の悲惨を描いた傑作でしょう。ただし、これ、とんでもなく陰鬱な短篇です。読むと気が滅入ります。アーノルド・ローベルの翻訳者にこんなグロテスクに性を描いた小説があったとは驚きでした。「キモ小説は嫌い!」という方は今回の記事はスルーしてください。

「炎に追われて」の主人公、匹田は大学生(大学院生?)。金魚鉢で飼っているアリジゴクが唯一の友だちという筋金入りのキモメンで、自ら<窖(あなぐら)>と呼ぶぼろぼろの一軒家を借りて暮らしている。かつては妹と仲よく暮らしていたのだが、自分の友人と妹が仲良くなったのに嫉妬したり、昼寝の隙にスカートの中を覗いたりとやりたい放題の兄に嫌気が差した妹は借家を出て行ってしまい、彼氏をつくって同棲している。

優秀な学生である(らしい)匹田は自分の非モテ度について、こんなふうに述懐する。
手痛い、いくつかの求愛の失敗を思い出し、わたしはその苦痛の記憶に虐まれて思わず声が洩れた。娘たちはみな控え目で上品にふるまい、わたしに対しても決して傷けるようなことはいわなかった。しかし、わたしが彼女たちに一歩でも踏みこもうとすると、必ずきっぱりとした拒否に出会った。わたしは知識を称賛され、秀れた友人として評価された。しかし、いったい娘たちから一人の青年がそう思われることにどんな価値があるだろう? 性愛の対象としても、結婚の対象としても認められていない若い男など、どんな意味があるだろう? 娘たちが<友人>としてわたしを扱うことは、お前はどこへでも行って勝手にしろ、ということ以外ではあり得なかった。


性の飢えに苦しむ匹田は妹の同級生、和子に接近する。和子は不器量な娘で、匹田は嫌悪感をもっていたが、背に腹は変えられない。映画館でデートして、暗い館内で和子の手を握る匹田。和子は嫌がるが、燃え上がった匹田は押しの一手。調子に乗って肩を抱いたら、とうとう和子がキレる。「愛してもいないくせに」と怒られ、図星の匹田はギャフン。

その後、和子となんとかキスまではこぎつけたものの、ことに及ぼうとすると、「いけないわ、こんなの。結婚するまで待って」と拒まれる。何が結婚だ、いつそんな約束をした、不器量のくせにもう婚約者気取りか、と匹田は内心で相手を罵る。結局、このあと和子は匹田を怖がって逃げてしまう。

ろくに女友だちのいない匹田は、今度は行きつけの料理屋の女主人、はるみに目をつける。はるみは40過ぎの未亡人で、小学生の娘と二人暮らし。夜陰に乗じて料理屋に侵入、はるみを強引に押し倒しはしたが、緊張のあまりどうしてもできない。うんざりしたはるみはおざなりに匹田を慰め、やがて眠ってしまう。女が眠り、その無防備状態に安心した匹田ははるみにのしかかり、ことに及ぶ。終わってホッとしたのも束の間、目を覚ましたはるみは激怒。「ひとが寝てるあいだに何するのよ」「ゴムも使わないで勝手なことして。匹田さんたら、知らないわよ」
「大丈夫だろ」と軽い声で答えたものの、マジギレのはるみを見ているうちに不安になる匹田。だんだん気分が悪くなり、外へ飛び出し嘔吐する。

…とまあ、なんとも気持の悪い小説です。わたしは胸が悪くなりました。しかし、非モテ童貞の苦しみをこんなに生々しく描いている点で、この小説は名作と呼べると思います。ここまで追い詰められた匹田の「性的孤独」は、そのグロテスクさにおいて『情熱紀行』の友子の比ではありません。ただ、ちょっとひとには薦めかねるかな…。
併録の「巣のなかで」「ミッドワイフの家」も性そして生をテーマにした小説です。好みを別にすれば、すぐれた短篇集だと思います。
(講談社文庫)

4061314688ミッドワイフの家
三木 卓
講談社 2000

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