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zoom RSS 『ブラスト公論』 宇多丸 前原猛 高橋芳朗 古川耕 郷原紀幸

<<   作成日時 : 2007/06/23 12:20   >>

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本書は雑誌『blast』で2000年から2004年まで連載されていた座談会を単行本化したもので、ライムスターの宇多丸をメインに5人のいわゆる業界人たちが、時事ネタや芸能人の話題、モテ問題やトキメキ研究などについて知的かつユーモラスに語り合う、という内容。素晴らしい笑いのセンスと鋭い指摘に感嘆したり、自分がいかに思考停止しているかに気づいて恥じ入ったり、「よくぞ言ってくれました!」と溜飲を下げたり。この数日間は仕事のあとほぼ毎日サウナへ行き、帰宅してビールを飲みながらこの本を読むという生活パターンで、それがとても楽しかった。

「勝ち組か負け組か」「豪邸かあばら家か」「モテか非モテか」。
そういった安易で危険な二項対立の問いそのものを、思考と言葉でずらしていくという素敵な試み。自分が当たり前だと思っていたことが、ちょっと考えてみるとなんの根拠もなかったのだと気づかされることもしばしば。
たとえば紋切り型な実体験至上主義(家でゲームしているのは悪で外で遊ぶことが善、みたいな)についてこんなふうに語る。
宇多丸 花火がつまらないって人がたまにいるじゃん? 「キレイだけど…で、なに?」みたいな。女の子に「このお花キレイ〜!」とか言われても「まぁキレイだけど…そんな?」みたいなさ。逆にこっちはよくできたプラモデルとか見て「うわ、すっげえ!」とか大騒ぎしたり。だからツボが違うだけで人によってそれぞれあるんだろうけどさ。(中略)……それに優劣はつけられたくないよな。「ゲームばっかやってないで実際の景色を見てきなよ」とか余計なお世話だっていうんだよ。マンガや小説を読むことによって凄い景色を見ている人だっているわけだからさ。


結婚については。
死亡 けどいいよ、やっぱり。(中略)人生をシェアするってことはいいことだと思うんだよね。
宇多丸 シェアするの「も」いいってことじゃないの? 別に人生の伴侶がいなければ不幸だっていうのもどうかと思うんだけど。
死亡 伴侶がいた方がいいに決まってるよ。
宇多丸 違うと思うよ。いや、いた方がいいのかもしれないけど、でもそれってそう簡単に会えないのかもしれないわけだし、だからみんな手近なところで見つけて不幸になっちゃうわけでしょ?
死亡 あぁ、なるほどね。
宇多丸 だから、ベストな相手じゃなかったら一緒にいなくてもいいんじゃない?
死亡 そりゃそうだね。
宇多丸 いや……ベストな相手なんていない。ベストな相手なんていないんだから、せめて豊富な選択肢の中から選んだベターな相手というか。
古川 あるいはベストだって信じ込める相手がいるのならいいけど。


コミュニケーションにおいて「空気を読む」ということが重要な条件として支配的になりつつある風潮については。
宇多丸 でもさ、空気ってなに? 空気を読もうがなにしようが会話自体成立しない人っているじゃん。それって人間の問題だよ。空気なんて読むもんじゃなくない? 空気が合う人と一緒にいればいいだけでさ。お笑い番組みたく、いつも虎視眈々としてるのなんておかしくねぇ? みんなお笑い芸人じゃないんだからさ。空気を読むことイコール人間のコミュニケーション・スキル、みたいなのはおかしいよ。普通はみんな気の合う人といるわけだからね。(後略)


こういう文章を読んでいて批判的な箇所にぶつかったとき、それを自分のことと思えるかどうかで読み方がずいぶん違ってくる。誰かが、「いえてる〜」とか他人事のつもりで本書を読んでいて、でも他人から見たら実は「これはあなたのことを言っていると思うよ」と思われているかもしれないわけで、そういうふうに相対的に物事を見られるようにならないと何を実体験しようが何を読もうがあまり意味がない気がする。相対的な視点をもてば「笑い」を失わないで済むし。笑っている場合じゃない、というときも人生にはもちろんあるけれど、でも笑えないがために人生を無駄にしてしまう場合だってあるわけで、勇気や愛と同様に、笑いって人生において物凄く重要な要素だとわたしは思います。そういう相対的な視点を学ぶために、若い方なんかは本書を読むとよいのではないでしょうか。とくに高校生。自意識過剰で、モテなくて、何をやっても頭のどこかが冷めちゃっているような16歳男子なんか、本書の最高の読者になるかもしれない。
古川 (引用者注:本書は)自殺を救うぐらいにはなれるかもしれない。
宇多丸 もう救ってるかもよ。


居酒屋談義ふうなのにこんなにハイレベルな会話ができる彼らは凄い。プラトンの本みたい。しかもこっちのほうが面白いし。辻仁成について語る回(「ギバちゃん、マイナスです!」「バロウズもジャンキーでしたよ!」)と谷佳知、亮子夫妻の結婚式について語る回(「アルカイダここですよ!」)は爆笑。しかし、自分の価値を三枚のカードで提示する回(「『エディター』『金髪』『俳優志望』」)と人生を映画にたとえた回(「スピルバーグの映画に出たなんて凄いねぇ…」)は本気で考えさせられる。

読んでいるあいだ気持よかったのは、自分がいかに周囲の雰囲気に流されているだけで、薄っぺらく、つまらない人間かということを知ることができたから。広範な話題を時にはおもしろおかしく、時には熱く語るこの五人はカッコいいなあ。

なお、本書の一部はネット上で読むこともできます。
ブラスト公論お試し版(ブログ公論)
「三枚のカード」は五人のプロフ欄のところを参照のこと。要するに、自分を一番高くアピールできる「三枚のカード」を考えよう(ただし客観的事実のみ可。「やさしい」など抽象的なものは不可)というのですが、これ、やってみると意外とヘコみます。というか、わたしは三枚目が見つかりません…。泣ける。
(シンコーミュージックエンタテイメント )


4401619951ブラスト公論―誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない
宇多丸; 高橋 芳朗; 郷原 紀幸; 前原 猛; 古川 耕
シンコーミュージックエンタテイメント 2006-03-01

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突然のコメント失礼します。

復刊ドットコム(http://www.fukkan.com/fk/index.html)に「ブラスト公論」のリクエストがあるようです。
http://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=42791

無料のユーザー登録をすれば投票できるそうです。
https://www.fukkan.com/fk/UserRegist

絶版になっており、アマゾンでも高額なので、手に入れたいという方は多いかと思います。私もそういう者です。

多くの人が投票すれば復刊の可能性もあると思います。復刊を希望される方はぜひ投票してみて下さい。
aka
2009/08/18 20:12

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