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zoom RSS 『飛ぶ教室』 ケストナー

<<   作成日時 : 2007/07/21 21:00   >>

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エーミールと探偵たち』は素晴らしかったが、こちらはさらによい。ケストナー、好きかもしれない。読んでいて嬉しさのあまり涙が出そうになる。

タイトルが妙だ。「飛ぶ教室」とはなんのことだろう。どういうことだろう。
読みはじめる。『エーミール』のときと同じく、冒頭で作者があれこれ楽屋裏を明かして、それからお話のはじまり。少し読んでいくと、奇妙なタイトルの意味がわかる。ははあ、そういうこと。

五人の少年たちの物語。彼らは故郷から遠く離れたギムナジウムの生徒だ。ギムナジウムはドイツの中高等学校。大学進学を目指す生徒が、四年間の小学校を終えてから10歳で入学する。遠くから入学した生徒たちは寮で寝起きする。寄宿生活だ。

優等生のマルティン。
作家志望のジョニー。
読書家のゼバスティアン。
臆病なウーリ。
腕っぷしの強いマティアス。
個性豊かな彼らが過ごす、ある冬の物語。

児童文学である。児童文学とは何か。子ども向けに書かれたお話か。それもあるがそれだけではない。むしろ大人が読んでこそおもしろい。
ケストナーは言う。
どうして大人は自分の若いときのことをすっかり忘れてしまうのだろうか。子どもだって悲しくて不幸になることがあるのに、大人になると、さっぱり忘れてしまっている。(この機会に心からお願いしたい。子ども時代をけっして忘れないでもらいたい。どうか約束してもらいたい)

世の中に出て、金を稼ぐようになってから人生がはじまるのではない。生まれたときからはじまっている。悲しみや喜びの大きさ、深さに、子どもも大人もない。両親が喧嘩すると死にそうなほど不安にならなかったか。友だちに約束を破られると悔しくて涙が出なかったか。
貧しさゆえにクリスマスに帰郷できないマルティンの孤独は、子どもの孤独でも大人の孤独でもなくて、人間の孤独だ。読んでいて、つらい。

ケストナーの小説の子どもたちは賢い。ケストナーは大人に失望していたか。本書が出版されたのは1933年。ナチスが政権をとった年だ。
「どんな迷惑行為も、それをやった者にだけ責任があるのではなく、それを止めなかった者にも責任がある」

登場人物の一人の台詞だ。べつの人物はこう言う。
「勇敢であることも、勇敢でないことも、できるだけひっそりやってもらいたい」


Amazonのレヴューを読んで驚いた。現在、四人の方によるレヴューがあるが、どれも何を言っているのかさっぱりわからない。つくづく他人の意見はアテにならないと思う。大人が上から目線で読んだらこの小説はたぶん面白くない。屈むことだ。173センチの目線をやめ、130センチの目線で読むこと。そのあと講談社文庫のほうのレヴューを見たら、安心した。
そして、なぜAmazonのレヴュアーはだれ一人、訳者による「あとがき」および「解説」にふれていないのか。本編に勝るとも劣らぬ出来だというのに。
「訳者あとがき」から引用する。
『飛ぶ教室』は、これまで児童文学として翻訳されてきた。日本の児童書には、「わかりやすさ」に配慮した独特の慣習がある。たとえば、漢字が少ない(と、スピードを出して読めない)。少ない漢字にルビがふってある(たくさんルビがあると、ゴミのように目障りだ)。たどたどしいデスマス調(最近は減りつつあるが)。会話のたびに改行してしまう(のは、児童物にかぎらず、日本の文芸物の悪しき慣習だ)。
なぜ、こんなお節介をするのか。猫なで声の「子どもの友」が、子どもの知的レベルを過少評価してきたからだ。猿が鏡をのぞきこめば、猿の顔しか映らない。
(中略)
児童文学は、子どもを大人から区別するようになってから生まれた。だが、私たちは「子ども」や「わかりやすさ」を必要以上に配慮することによって、逆に、子どもを小さな枠のなかに囲いこみ、子どもと大人の垣根を必要以上に高くしてしまったのではないか。翻訳にかぎらない。もしも、わからないことがあれば、「わからなさ」を抱えて暮らしていけばいい。どうしても知りたくなったら、自分で調べればいい。

正論だと思う。蛇足を承知で付け足せば、「わからなさ」を調べる過程で間違いをおそれるな、と言いたい。人間なら、だれだって間違える(間違えないのは人間ではない)。間違いに気づいたら直せばいい。その間違いでだれかを傷つけてしまったなら、心から謝ればいい。許してくれる人もいれば、許してくれない人もいるだろう。そういうものだ。

ケストナーは説教をする。たいていの人間は説教するのは好きでも、説教されるのは嫌いだ。でもケストナーはユーモアに包んで説教できる。ここが偉い。彼が言っているのはどれもあたりまえのことばかりだ。いったいわたしはいつから、あたりまえのことができなくなったのか。たまにはまっとうな話を聞きたいという方、ケストナーはいかが。

丘沢静也 訳(古典新訳文庫)

4334751059飛ぶ教室
ケストナー 丘沢 静也
光文社 2006-09-07

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4062739453飛ぶ教室
エーリッヒ ケストナー 山口 四郎 桜井 誠
講談社 2003-12

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『飛ぶ教室』ケストナー を読んで
飛ぶ教室 (光文社古典新訳文庫)ケストナー 良い!私の中での久々のヒット小説だ。 内容紹介 孤独なジョニー、弱虫のウーリ、読書家セバスティアン、正義感の強いマルティン、いつも腹をすかせている腕っぷしの強いマティアス、同じ寄宿舎で生活する5人の少年が友情を育み、信.. ...続きを見る
そういうのがいいな、わたしは。(読書日記...
2008/03/08 23:42

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
epiさんこんにちは。
古典新訳文庫の『飛ぶ教室』『カラマーゾフの兄弟』、順番は違いますがお互いに読了、ですね。
『飛ぶ教室』の訳者あとがき、私も感激してブログに記しました。
よければのぞいてみてください。
http://d.hatena.ne.jp/mari777/20061017
……おんなじところ、引用してます……

mari777
URL
2007/07/21 21:25
>mari777さん

こんばんは。コメントありがとうございます。
mari777さんの記事、拝読しました。「訳者あとがき」いいですよね。丘沢静也さんという方は今回始めて知ったのですが、なかなかおもしろそうな方です。古典新訳文庫はいわゆる児童文学もたくさん出していて、それらが大人でもストレスなく読める体裁になっているのが本当に魅力的です。
『二人のロッテ』もきっと読んでみようと思います^^
epi
2007/07/21 23:44
epiさんこんばんわ。
なるほど。児童文学かくあれという姿か。童話、絵本の時代が終わったらあとは「文学」として大人の仲間入りがあるのみなんですね。「猫なで声」というのはぐっと来るセンテンスです。後はやけに雰囲気ばかりを強調するようなイメージが児童文学‥じゃなくて、子供が主人公に出てくる作品では多いイメージがあって、避けちゃうんですよね。このケストナー、結構理屈をこいていません?そうだったら嬉しいなぁ。しかしケストナーはまだ未読項目で、唯一信じられる訳者として池内さんの「ほら吹き男爵」しか積んでいません。今回の訳者は骨がありそうですね。買おっかな。
おはな
2007/08/01 00:12
>おはなさん

こんばんは。
この訳者は児童文学だから、と『飛ぶ教室』を手加減して翻訳するようなことはしていなくて、そこに感動しました。上から見下ろしていないんですね。同じ目線で訳している。ただこの小説に関しては、子どもより大人が読んでこそぐっとくるのではないかな、と思います。ああ、友情とか正義とか、恥ずかしくて馬鹿にしていたけれど、やっぱりまっとうなことって強いなあ、ハートにズンとくるなあ、と(わたしだけ?)。

けっこうケストナーは理屈をこいていますよ。一歩間違ったら説教オヤジです。それをユーモアに包んでいるからうるさくならない。それどころかホロリとさせられる。野暮な言い方は決してしません。丘沢さんの訳文もとてもドライです。

>池内さん
この丘沢さんのそっけなくてリズムのいい訳文が、池内さんと感じが少し似ている気がしました。巻末の解説および訳者あとがきもとっても気持いいものです。これは、めっけもの。
おはなさんがこのシリーズをお読みになってどう思われるのか、今からとても楽しみにしております(^^)
epi
2007/08/01 21:53
epiさんこんばんわ。あ〜う〜読んでから来ようと思ってたんだけど。epiさんの行商(変な言い方でごめんなさい。おすすめのことを私はそう呼ぶのです)に乗って、この本を買ってしまいました。今また手こずり物件最中なのでいつになるか分かりませんが、近い内にと思ってます。しかし中をちょっと覗くと‥うああああ〜なんですかこれはこの文字の読みやすさは何! これまずいですよ。こんな環境に慣れてしまったら岩波復刊なんて2度と読めなくなるじゃないですか(笑)。
おはな
2007/09/06 02:35
>おはなさん

お買い上げありがとうございました(でいいのでしょうか?・笑)そうですか、とうとう古典新訳文庫シリーズをお買い上げに。おはなさん好みのディープなものも出るといいですよねえ。
『飛ぶ教室』は「手こずり物件」の合間の息抜きに読んでもよいかと思いますよ。また、すごいのをお読みなのでしょうし。きっと(笑)

文字組みはほんと読みやすいですよね。今年定年を迎える団塊世代を呼び込もうという出版社側の意図もあるようですが…。これを読んだ直後は、むかしの岩波文庫や新潮文庫、おおむかしの角川文庫のアリの頭みたいな小さな文字は読めない読めない!
epi
2007/09/06 16:44

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