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zoom RSS 『石原吉郎詩文集』 石原吉郎

<<   作成日時 : 2007/08/30 12:07   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 1 / コメント 1

石原吉郎の詩、エッセイ、日記からの抜粋を収録。
冒頭の「詩の定義」を読んだだけでもう魅了された。詩は書くまいとする衝動であり、詩における言葉は沈黙を語るためのことば、「沈黙するための」ことばであるという<沈黙の詩学>とは面白い。詩人は述べる。「失語の一歩手前でふみとどまろうとする意志が、詩の全体をささえるのである」と。
この詩学がどう関係しているのかまではわたしにはわからないけれども、こんな詩に出くわしたら寂しさが極まって悲鳴が出そうになった。
夜がやってくる

駝鳥のような足が
あるいて行く夕暮れがさびしくないか
のっそりとあがりこんで来る夜が
いやらしくないか
たしかめもせずにその時刻に
なることに耐えられるか
階段のようにおりて
行くだけの夜に耐えられるか
潮にひきのこされる
ようにひとり休息へ
のこされるのがおそろしくないか
約束を信じながら 信じた
約束のとおりになることが
いたましくないか


集英社のナツイチのコピーではないけれど、ただ言葉がならんでいるだけなのに、どうしてこんなに気持を揺さぶられるのだろう。長いので引用はよすが「葬式列車」なんて、読むと生きているのが憂鬱になってくる。詩にうといわたしですら心を動かされるのだから、これは相性のよさもあるのかもしれない。

エッセイの白眉は「ペシミストの勇気について」だろう。石原が敗戦後に体験したソ連のラーゲリ(強制収容所)で友人、鹿野武一がとった真にペシミスティックな態度。ラーゲリのような極限状態では人はオプティミストになって一日だけの希望にたよるほかない。そうでなければ生きられないほどの苦しさと絶望と疲労があるのだろう。「なまはんかなペシミズムは人間を崩壊させるだけである」と石原は述べている。にもかかわらず鹿野は本物のペシミストとしてラーゲリで生きていた。この短いエッセイを読み、こんな人間が実在したのかと驚嘆した。彼がラーゲリの取調室で対面した保安中尉に向かって口にした言葉(「もしあなたが人間であるなら、私は人間ではない。もし私が人間であるなら、あなたは人間ではない」)には荘厳さすら感じてしまう。加賀乙彦さんの言った「神聖な感じ」とはこういった作品を指すのかもしれない。

日記は克己的という言葉がぴたりとする非常に生真面目なもの。石原は精神の危機を聖書およびキリスト教によって乗り越えようとしていたらしく、幾度も聖書についての記述が出てくる。不惑を越えてなお「自分はいかに生きるべきか」的な悩みをかかえて生きている詩人を知り、いたましさを覚えた。惰性で生きることにどうしようもない嫌悪感を抱いていたのに違いない。真面目な性格だったのではないか。
真面目さといえば、こんな一節がある。
Ernst(まじめさ)ということは、ものごとが自分自身へかかわる度合いをいう。自分自身の、人間としての生き方にかかわりのないものは、結局気ばらしにすぎない。

共感を誘うこんな一節もある。
通りすがりに街頭で、ふと耳にする旋律の美しさにおどろくことがある。書店の店さきで、何気なく開いた詩集の一連、画集の一ページに目を見はることがある。私は、多く行きずりに美しいものに会う。詩集や画集を求めて帰り、自分の机に置くとき、それらの魅力は色あせ、店頭でのあの生き生きとした感動はもはやよみがえらない。予期しない時に出会うものの美しさ。私たちを立ちどまらせる感動。私は求めているときにそれに会うことがなく、求めていない時に不意に出会うのだ。

感動はつねに不意打ちでしか起こりえないのだ。わたしが本書に出会ったように。


わたしには石原吉郎に親しみを覚えていい噴飯ものの理由がある。本書巻末の年譜によると詩人が亡くなったのは1977年11月14日で、これはわたしの生まれる二日前にあたる(わたしの生まれた日に荼毘に付された)。
1960年に転居した生涯の住居、密葬が行われた集会所、荼毘に付された斎場、それらのあった土地もわたしと濃い薄いの程度こそあれ縁なき土地ではない。詩人が火葬された斎場にはわたしも訪れたことがある。よくいえば庶民的な斎場だった。自宅から車で1時間とかからない。

4061984098石原吉郎詩文集 (講談社文芸文庫)
石原 吉郎
講談社 2005-06

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
石原吉郎の詩作品ほど、心を揺さぶられたものはない。
彼の詩は物質と同じ衝撃で読者を打つ。
あるいは、波と同じ勢いをもって覆い被さってくる。
幾度繰り返して読んでも、飽きない存在感だ。
日本語の究極を示している。
根保孝栄
2009/08/19 03:59

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