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zoom RSS 『贖罪』 イアン・マキューアン

<<   作成日時 : 2007/09/06 21:34   >>

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ロレンス・ダレルが書いたように、人生は虚構なのだ。現実世界はリアルで小説世界はアンリアルだという捉え方はあまりに純朴に過ぎる。そしてその境界は曖昧だ。わたしはどうして現実/非現実などという言葉でもって両方の領域を線引きできるなどと安易に考えることができたのだろう。『アレクサンドリア四重奏』を読んだあとでは、われながら不思議でならない。小説という「お話」がアンリアルだというなら、現実という「お話」もそうだといえるのではないか。わたしはどうやら小説/現実というものの捉え方を誤っていたらしい。フィクションとは現実に対置されるものではなくて現実のバリエーションだったのだ。こんな簡単なことになぜ今まで気がつかなかったのか!(阿呆だから)
ダレルのあとに本書を読み、以上のことを遅ればせながらようやく認識した。マキューアンを読んだのはこれがはじめて。

内容について詳細に書くのは避けたい。これはミステリ的な要素を含んでいるので未読のかたの楽しみを奪うことになってしまうから。この小説は前知識はなければないほど楽しめると思うので、ネタバレはありませんが、未読のかたは以下の記述はスルーしてください(読了後、またお会いしましょう)。


小説の主人公は13歳の少女ブライオニー。10歳のときから「物語」を書き始めた作家志望の少女だ。彼女がひさしぶりに帰郷する兄に見せるために芝居の台本を書いている場面から小説ははじまる。
しかし肝心の兄の帰郷の日、ブライオニーは何気なく立った二階の窓辺からある不自然な光景を目撃する。そのあとでいくつかの偶然が重なり、彼女はひとつの愛を(本人の言葉によれば)悪意なしに無残に破壊するという罪を犯すことになる…。
後半はブライオニーの贖罪の物語となる。過去に犯した罪を贖うことは可能なのか。そのために多くの人たちの人生を狂わせてしまった過去を書き変えることは。それとも、一度犯された罪は決して消せず、赦されもしないのだろうか。小説の序盤では13歳だったブライオニーはエピローグでは77歳の作家になっている。そしてここで、ある真相が彼女自身によって語られる。この場面で読者は驚嘆するだろう。少なくともわたしはそうだったし、思わず「ああ!」と嘆声すら洩れた。

もしリアル/アンリアルに優劣をつけるとしたら、どちらを上に置こう? わたしはエピローグのブライオニーの語りを読むうちに、アンリアルのほうをこそ上位に置きたい気になった。上ではフィクションは現実のバリエーションに過ぎないと書いておきながらこんなことを書くのは矛盾になってしまうのだけれど、『贖罪』は豊かなフィクションが貧しい現実に勝利した凱歌の書なのだ。

ブライオニーの贖罪。それはいかにしてなされるのか。それは果たして成就するのか。小説の終わり近くで作家はこう書く。
物事の結果すべてを決める絶対的権力を握った存在、つまり神でもある小説家は、いかにして贖罪を達成できるのだろうか? 小説家が訴えかけ、あるいは和解し、あるいは許してもらうことのできるような、より高き人間、より高き存在はない。小説家にとって、自己の外部には何もないのである。なぜなら、小説家とは、想像力のなかでみずからの限界と条件とを設定した人間なのだから。神が贖罪することがありえないのと同様、小説家にも贖罪はありえない――たとえ無神論者の小説家であっても。


贖罪とはしかし、罪を悔い、悔悟を口にし、対象に許されることで成就するものなのだろうか。過去は消せない。一度起きたことはもはやなかったことにはできない。犯された罪もまた。この小説はブライオニーの罪を扱っているが、中盤は第二次世界大戦の場面がえんえん続く。マキューアンはここで戦争という、人類の(おそらくは)最大の罪を贖うことについても問いかけているように思われる。戦争という罪を贖うことは、では可能なのか、と。


4105431013贖罪
イアン マキューアン Ian McEwan 小山 太一
新潮社 2003-04

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