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zoom RSS 『隣の家の少女』 ジャック・ケッチャム

<<   作成日時 : 2007/09/21 00:00   >>

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残酷な内容の小説。こういうのも読む。たまにだけれど。

牧歌的なタイトルだ。少年時代の淡い恋愛を描いた小説のように思えなくもない。実際にはとんでもない。両親を事故で亡くした幼い姉妹が遠い親戚の家に引き取られ、そこで姉娘は住人たちによって地下室に閉じ込められ、虐待される。語り手はその家の隣に住んでいた。彼はすべてを目撃していながら、勇気を出すことができずただ傍観していた。次第に少女への虐待はエスカレートしていき、生命の危険すら感じさせるほどになっていく。

怖いものはわりと好きだ。小説でも映画でも。怖さは気持悪さとは違う。映画でいうなら、人が次々残酷な方法で殺されていく、いわゆるホラーは苦手でほとんど見ない。しかし、心理的に追い詰められていく、人間が少しずつ狂っていくスリラー(サスペンス?)は大好きだ。どんな下手な監督が撮ったって、本物そっくりの人間の首が飛ぶのを見せられれば気分が悪くなる。しかしそれは怖さとは違う。ただの嫌悪感だ。ヒッチコックの映画がいまなお人気なのはブランドとしての地位もあるかもしれないが、彼がどれだけ本物の怖さについて熟知していたかを示す証左でもあると思っている。ヒッチコックは怖い。

本書では主として、可憐な少女への残酷な虐待が扱われる。いまや日々の報道を通じて、子どもへの虐待は(忌むべきことに)身近な事件のひとつでもあるだろう。ケッチャムはこれを過激に書く。しかし想像力を酷使してはいない。おそらく、もっと残酷な虐待方法はいくらでもあるだろう。しかしそこまでいかないのは著者の力量の問題ではなくて、たぶん虐待の過激さそのものを主題としていないからだ。ケッチャムは、決して虐待に参加しないとはいえ傍観しているだけの語り手が限界的な状況になるまで虐待者たちと秘密を共有している欺瞞を暴くことに関心があるように思える。語り手はいくらでもその機会があったにも関わらず、親にも警察にも隣家で起きていることを知らせようとはしない。彼がようやく勇気を振り絞って少女を救出しようと計画するのは事態がかなり深刻化した後のことになる。できるなら、もっと早く勇気を出してほしかった。しかしそうだからこそ、冒頭の「苦痛とはなにか、知ってるつもりになっていないだろうか?」などともったいぶった文章を書けたのかもしれないが。
話はエグい。しかしどうしようもないほど打ちのめされる、というほどのレベルでは、たぶんない。

何より怖さという点で物足りない。深夜に読み始め、早朝まで読みふけったくせにこういうことを書くのは冷淡な気もするが。なぜなら、肝心の、どうして虐待が行われたのかという謎――ワイドショー好みの言葉を用いれば加害者の「心の闇」――が最後まで判明しないからだ。わたしは人間の心理に関心があるので、そこの部分を細緻に分析、叙述していない本書のような場合、どうしても物足りなさを覚える。これではただ、いたいけな少女を痛めつけてみました、というだけの話になってしまいかねない。同じ監禁をテーマにしても、ファウルズの『コレクター』のほうがどれほど怖かったか。あの主人公の、昆虫のような内面の虚無。そこの掘り下げがないぶん、恐怖小説としてこの小説は二流だとわたしは思う。


本ブログは開設当初は管理人が読んだ本すべてを、たとえそれが面白くなくても、記録していくブログにするつもりでいたのだけれど、さすがにそこまでの時間的余裕はないし、また、つまらない小説をつまらなかったと書いてそのつまらなさの原因をいちいち挙げることの虚しさに早々に気づいたのもあって、そんなマメなことはしていない。それでもいくつか「イマイチだった」みたいな内容の記事があるのは、読んだ本はつまらなくても、つまらなかったと書くのはつまらなくなさそうだと管理人が判断したからだ。この小説自体もそれほどおもしろいとはしょうじき思わない(わたしとしては前述の『コレクター』のほか、古井由吉『栖』や桐野夏生『グロテスク』のほうが怖かった)。しかし怖さと気持悪さはぜんぜん別種のものなのだとは一度書いておきたかったので今回そのためにこの本を利用させてもらった。
怖さを殺いだ残念な理由として、文章の拙さ(とくに改行の仕方がうまくないと思える)が挙げられる。

圧倒的な悪の力の前では善の力は無力と思えたが、最後には意外な結末が来る。辛口になってしまったが、読み始めたら止まらない小説であることは間違いない。


459402534X隣の家の少女 (扶桑社ミステリー)
ジャック ケッチャム Jack Ketchum 金子 浩
扶桑社 1998-07

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