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zoom RSS 『思い出トランプ』 向田邦子

<<   作成日時 : 2007/09/30 00:00   >>

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向田邦子さんてこんなに怖い小説を書くのかと意外だった。トランプと名のついたタイトルのとおり、ぜんぶで13の短編が収められている。そのどれもが日常を舞台としている。特殊な設定の物語はこれといってなく、普通の人間の悪意や残酷さがさらりとスマートに書かれている。そこが怖いのだ。

基本的には男女の関係を描いた作品が多い。夫婦のみならず、家族が描かれる場合もある。どれにも共通しているのは、人間のこころの動きをじつに精妙に捉えている点。たとえば「はめ殺し窓」。男好きだった母親への嫌悪感と思慕とを抱えた中年男が、自分の妻と娘へ注ぐ視線の偏り。彼は妻を実直な女、娘は祖母似の多情な女と決めつけて見てきたのだが実は…というお話。終わりちかくの「父親の仇を、婿が討ってくれたような気もした」なんて、なかなか書けない一節だろう。いやあ、本当に怖い。この短編は本作中でもっともすぐれた一編であると思う。こうも見事に読者の思惑を裏切るとは見事というほかない。

ほかにも、義父の葬儀や夫の病気までもイベントにしてはしゃぐ妻を描く「かわうそ」や、魚屋の店員と彼が思いを寄せる娘との奇妙で不気味な恋? を描く「犬小屋」や、誤って幼い息子の指を包丁で切ってしまったことから不和に陥った夫婦を描く「大根の月」などは、こうも人間の心理を、しつこい分析調抜きであっさり書けるものかと舌を巻いた。

ただ、「猿股」なんて語が出てきたり、「女を囲うのは男の甲斐性」みたいなくだりが出てきたり、少し小説世界が古く感じられるのは事実で、読者によってはそれを懐かしく感じたりもするのかもしれないが、逆に不快に感じる読者もいるかもしれない。プロフィールを見ると向田さんは昭和4年の生まれで昭和56年に没している。まさに昭和を生きた人生というわけで、その時代の風情が濃いのは自然なのだろう。時代背景は多少色褪せていても、書かれている人間模様はまったく古びていない。


410129402X思い出トランプ
向田 邦子
新潮社 1983-01

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。
私もこの本を読んで、とてつもなく怖いな〜と思いました。さらっと流すようでいて充実した叙述ですよね。
ところでepiさんのブログを僕のブログのリンクに追加したいのですが、よろしいでしょうか?
Mr.マクベ
2007/10/15 18:44
>Mr.マクベさん

こんにちは。
向田さんのこの短篇集はどれも無駄のない文章であっさり、さらっと人間心理の微妙な襞を描いていますよね。こうも見通されてしまうと怖いなあとしみじみ思ってしまいます。
リンクの件ですが、もちろん大歓迎です。ありがとうございます(^^)わたしもMr.マクベさんのブログをリンクさせていただきますね。
epi
2007/10/16 10:23

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