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zoom RSS 『昔の恋人』 藤堂志津子

<<   作成日時 : 2007/11/04 00:00   >>

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この著者の小説ははじめて読んだのだが、wikipediaには凄い書かれかたをされている
恋愛の中の性欲、孤独、見栄、打算などを冷徹に描き出すのが藤堂の作風で、特に1998年の『夜のかけら』以降、新境地を見せ、『昔の恋人』で高い達成に至った。またそれ以後は、三十代後半、四十代の女の恋愛とセックスを描いて、余人の追随を許さない。


興味があるわけですよ非常に。女性の心理とか、恋愛観とか、性欲とかに。男ですから(助平なだけか?)。いままで生きてきて女性と接してきて痛感するのは、とにかく女は謎だ、という一語に尽きる。その謎を少しでも解明したければ女性作家の書いたものを読むのが手っ取り早いだろうと思って本書を手に取った(本なんか読まず現実の女性ともっとコミュニケーションをとれ、キャバクラ行け、という忠告もあるでしょうが、これは半分しか正しくないと思う。当の女性たちと話してみたところで彼女たちはすぐれた作家ほど自分の感情や心理を言語化できないし、また経験というのはある程度の知識がベースにあってはじめて血肉化されるものだからやみくもに「何でも見てやろう」とするのは若者ならいざ知らず、わたしくらいの歳になると効率が悪い。たぶん)。

なんだか妙な下心をもちつつ読み始めた本書には、表題作のほか「浮き世」「貴石」「魔法」の四つの短編が収録されている。どれも主人公は女性で、彼女たちと「昔の恋人」たちとのお話になっている。


表題作は、三十代後半の女性会社員のもとに、15年ぶりに昔の恋人(と呼べるかは微妙なのだが)から電話がかかってきて、ためらったのち会いに行くが…というお話。わりとありきたりというか、展開は想定の範囲内なのだけれど、主人公の言動にリアリティがあって、叙述の部分で楽しめる。お話としてよりレベルが高いと思われるのは次に収録されている「浮き世」だ。

「浮き世」の主人公、室宇多子は都内で働く三十代半ばの会社員。容姿に恵まれているが恋人はいない。社内では「四十歳以上の男で室さんを嫌うひとはいない」と評判で、本人もまんざらではない。これまでは奔放な感情生活を送ってきた。
彼女には静岡から定期的に電話をかけてくる男がいる。五六年前に遊びのつもりで付き合ったのち一方的に捨てた相手、四歳年下の野木。彼は捨てられたあとも宇多子に執着している。宇多子のほうも捨てた負い目があるのでつい相手をしてしまう。
野木はある晩、歯科医の国家試験を受けることを電話で話したあと宇多子にプロポーズする。宇多子はもちろん戸惑うが、内心これもまんざらではない。男として見たら野木は物足りなく、まったくときめかないが、歯科医と結婚すればいい目はみられるだろう、そういう打算がはたらく。
宇多子は「ときめかないこと」と「経済力のあること」を天秤にかけて量る。まるでよりお得な買い物をするときのように。周囲に相談をもちかけるがこれは相談というより実質は自慢話になる。このあたりのさり気なく書かれた女性心理は読んでいてわくわくする。加えて、野木といういかにもモテなさそうな男の粘着質ぶりを描く著者のリアリズムも素晴らしい。

婚約の約束をのらりくらりとかわす宇多子に業を煮やした野木は静岡から会いに来る。知らせを受けた宇多子は「セックスしてごまかして帰らせよう」と即座に判断する(生々しい…というか女って怖いなあ)。好きでもない相手でも打算からセックスできるのか、と感心したが、いざその段になって宇多子は嫌悪感に耐え切れず野木をはねのけてしまう。


ほかの短編も含めリアリティに富んでいて、男であるわたしは女性の意見、それも若い女性ではなく三十代、四十代の女性の意見をちょっと聞いてみたくなる。「そうそう」とか「わかるわかる」と頷くだろうか、それとも「こんなのありえない」と一笑に付すだろうか、興味がある。

本書を読んで自分でも意外に感じたのだが、読む前はあんまり生々しい女性心理が書かれていたら引いてしまうかもという不安は読了後にはなく、それどころかたとえば宇多子のようなずるい女に対して愛しさのような感情がこみ上げてきた。計算高い、たしかにそう。不潔、たしかにそう。十代とか二十代前半のころは、女性をろくに知らないから過度の幻想を抱いてしまいがちだけれど、実際に女性と接して、歳もとってくるとそういった幻想は少しずつ消えていく。幻想を剥がして生身の人間として相手を見ることができるようになるのに、わたしは少しばかり時間が要った。たぶん男女を問わずモテる人というのはその「脱・幻想」をする時期が早いのではないだろうか。それともはじめから幻想なんて抱かないのだろうか。幻想を抱くのは非モテ人間だけか?

そんなことはともかく、わたしは本書を読んで自分のなかで女性に対して感じる愛しさの領域が広がったのを感じた。「可愛い」というのは照れくさいけれども、外回りから帰ってきてぐびぐびペットボトルのお茶を飲み「一生懸命働いてきました」とアピールする37歳も、好きでもない男だけれど裕福な生活ができるなら結婚してもいいかな、と秤にかける35歳も、それぞれ若い頃とは違った可愛さのようなものを獲得しているのではないかしらん。どうだろうか。というか可愛いと思って見れば何でも可愛く見えてくるものなんだけれどね。


4087474968昔の恋人 (集英社文庫)
藤堂 志津子
集英社 2002-10

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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
 40代女性として、すっごく興味深く読ませていただきました<epiさんのこの記事。私は藤堂さんの小説は過去に短篇集を1冊読んだことがあるだけなんですが、(正直タイトルも覚えてない・・)あまり共感は感じなかったような気がするな〜。小説に描かれているようなドラマティックな出来事を私自身経験してないからだろうけれど。
 男性から見たら女性って相当謎なんだろうな、と思います。女性から見た男性は結構分かりやすいですもん。どうして男はこんなに単純なんだろう、と・・。そこがかわいかったり憎たらしかったりするんですが。
 計算高くてずる賢くなった女性を「かわいい」と思える、(30前ですよね?まだ)epiさんはすごいと思いました。
猫のゆりかご
URL
2007/11/07 14:57
>猫のゆりかごさん

非常に貴重なご意見をどうもありがとうございます(笑)
藤堂さんて、直木賞作家だったのですね。そんなことも知りませんでした…。

>女性から見た男性は結構分かりやすいですもん。

ふふふ。そうですそうです。そういうご意見がききたかったんです。これってよくいわれますよね。どうしてなんでしょう。たとえば十代のころとかは女の子のほうが精神年齢が高く、だから同年代の男の子が幼稚に見えて仕方ない、みたいな話はよくききますが、だんだん年齢を重ねるにつれ差はなくなるようにも思うのですが。う〜ん、このことを書き出すと長くなりそうなので省きます(笑)
ちなみに、たぶんわたしも猫のゆりかごさんから見たらとてもわかりやすい部類の男だと思います(^^;)

epi
2007/11/08 04:27
>猫のゆりかごさん(続きです)

>「かわいい」
女性のかわいさはきゃぴきゃぴだけではないのだぞ、と。たぶんわたしがもっと若かったら「女ってこわい〜」としか思えなかったかもしれませんが、貧しいなりにある程度人生経験を積むといくらかは懐も深くなるようです(そうかなあ…)
あ〜そういえば来週で三十路です。こんなへなちょこがよく30年も生きてこられたなあと自分で驚いています。
epi
2007/11/08 04:28
何度もコメントを書こうと思ってはやめ…を繰り返していました。
いやなんというかこういう話題はお酒が入らないとなかなか話しにくいというか、でもとても興味がある話題でもあるわけで、いやはいやはや…(なぜか汗)

女も結構単純なんだと思います。いやもちろん人によるけど、でも基本的に打算的に振舞おうとしても女の場合はやっぱりLOVEが優先されるのではないでしょうか。ただそれが結構うつろいやすいから、そしていったん「もういいや」となるとすぱっと切捨てるから、謎に見えるのではないかと…。

いやでもなんでも「かわいい」と思えればしめたもんですよね、ほんと。
りつこ
URL
2007/11/08 22:33
>りつこさん

「女も結構単純」ときましたか。そうなのかなあ。たしかに女性同士ならそう思えるのかもしれません。女心は複雑だ、と思う時点でもう自らの非モテぶりを暴露しているようなものなのかも…(^^;)

打算もLOVEの前には敗北しますか。それを聞いて少し安心しました。ただ、そのあとの見切りの早さ、そして別れたあとはきれいさっぱり忘れて引きずらない潔さは女性のもつ凄さだと思います。りつこさんのおっしゃるとおり謎に思える。たいてい「昔の恋人」について詮索したがるのって男のほうじゃないでしょうか。女は相手の過去にあまりこだわらない? これも個人差のある問題ですが。

>なんでも「かわいい」と思えれば
そうそう、思ったもん勝ちですよね! 「かわいさ」の領域が十代のころよりろくに広がっていなければ、いったい自分は何を見てきたのか、と思ってしまうし。 
epi
2007/11/09 05:33

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