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zoom RSS 『出版業界最底辺日記』 塩山芳明

<<   作成日時 : 2007/11/25 00:00   >>

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副題「エロ漫画編集者『嫌われ者の記』」。著者は「三流エロ漫画雑誌」の下請け(編集プロダクション)の編集者。業界では有名人らしい。この方の1990年から2005年までの日記をまとめたもので雑誌の編集作業や漫画家たちとの交流が主な内容となっている。出版業界にもエロ漫画にもうといので、校正がどうとか下刷りがどうとかいうくだりはなんとなくしかわからなかったのだけれど、そんな読者でもとにかく楽しく読めた理由がふたつある。ひとつは機関銃のごとく乱射される罵詈雑言のおかしさ(解説で福田和也さんは著者を「日本のセリーヌ(ただし小説家ではないが)」と喩えている)。もうひとつは著者が読んでいる本の記録の凄まじさ。とにかく圧倒される。失礼ながら零細編プロ(従業員3名?)の仕事は激務だろうに、人間こんなに本が読めるものか。

著者の読書家としての位はかなり高い。センスも超一流。バルザック、ディケンズ、モーム、セリーヌ、近松秋江、田中小実昌などの有名どころに加え(神保町でバルザック全集と近松全集を買っている)、さらにファーブルの『昆虫記』やヴェルヌ、木山捷平や川崎長太郎など渋い私小説作家の小説、映画関連の本や自伝、そして週刊誌とその読書範囲はおそろしく広い。かなりマニアックというかイッちゃっている読書家なので一般受けはしないというか敷居が高すぎると思うけれど(鴎外を読み耽って電車を乗り過ごす!)、揺るがぬ鑑識眼に裏打ちされた独断に満ちた歯に衣着せぬ短評には痺れる(ソルジェニーツィンを「芸人」と言い切る!)。ふれられている本を読みたくなる。実際、わたしはこの本を読んで読みたい本が20冊以上も増えてしまった。

本のほかに映画の話題も熱い。著者はほとんど毎日本を読み、映画やビデオを見ているのではないか。記載されている映画についてはほとんどわからないものばかり。著者のマイベスト映画の『口笛が流れる港町』、『東京流れ者』、『嵐が丘(ブニュエル版)』、『花咲く乙女たち』…なんてわかる読者がどれほどいるだろう。そうとうマニアックでしょう、この方は。

それにしても著者の批判精神には舌を巻く。いいたかったけれどいえないでいたことを思い切り毒舌(筆?)をふるって述べてくれるのには喝采を送りたい(なんて書いたら「お前なんざに喝采される筋合いはねえ」とかいわれそうだが…)。
たとえば永井荷風の『断腸亭日乗』を完全文庫化しない岩波書店のことを、「他の稼業同様に臆病でセコイ商いしてんのに、文化香水噴きかけてオツにすましてる所が、出版人(!)、いや出版屋のゲロゲロな点」とバッサリ。似た文章は枚挙に暇がない。

(本屋の)書棚の段差に座るなとの貼り紙。狭い店内、口頭で注意しろ。馬鹿を基準に全員に説教すんな。


(役人の職務たらい回しは、癒着防止の美名に隠れた、単なる超無責任体制の一環)


ジャーナリストは“死せるイデオロギー”の代理じゃねえ。一職業。


殺人事件等が起きた場所に、無関係な者がTVカメラを意識しながら、花を捧げる心理に通じるのか? 漫画家が亡くなった際、いち早く関連サイトに追悼文を書き込んでは、溜飲を下げてる糞共のことだ。(中略)(ちゃんと自分の言葉で語っている分には、腹も立たない。すぐ“心から冥福を祈る”、新聞記者気取りのチンコロ野郎がムッカムカ!!)


このまともな批判精神ってどこかでも会ったような…と思ったら、そうだった、今年のベスト本の候補『ブラスト公論』のそれと通じるところがあったのだ。ただし、こちらのほうがより過激。しかし「きれいな言葉」で語られることだけでは、「このろくでもない、すばらしき世界(by缶コーヒーのBOSS)」で生きていけないだろう。わたしたちに必要なのは「本当のこと」あるいは「あたりまえのこと」なのだから。たとえば以下のような。

生き死にの場面になると、人間本性が出る。思想も糞もなく、まず自分が助かろうとあがく。仕方ない。命あっての物種であり、それを賭ける様な思想も大義もこの世には存在しない。


面白すぎる本書だけれどひとつ欠点が。読んでいるとつられて口調が荒くなる。


4480422358出版業界最底辺日記―エロ漫画編集者「嫌われ者の記」 (ちくま文庫)
塩山 芳明 南陀楼 綾繁
筑摩書房 2006-07

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