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zoom RSS 『きょうの私は、どうかしている』 越智月子

<<   作成日時 : 2007/12/13 00:00   >>

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ミシェル・ウエルベックの『素粒子』に登場人物のもう若くない女性がこんなことを述べる場面がたしかあった。「男の孤独は耐えるのはたやすい。安酒をあおって酔っ払って寝て、朝になったら起きて仕事に行けばいい。女の孤独はもっとつらい。女は男よりも長生きする。容姿の衰えにも苦しむ」とかなんとか。引用のとおりだと男の孤独も決して楽に耐えられるものではないと思うけれど、容姿の衰えに苦しめられるという点でははるかに女性のほうが苦痛の度は強いだろう。

この短篇集の主人公たちは40歳を目前にした女性たちばかり。みな仕事は当面順調だが、未婚で、恋人と呼べる相手もいない。もう若くはなく、さりとて老いてもいない彼女たちの心理を実に巧みに、情け容赦なく描く。いや、描くというよりえぐる、というべきか。巻末に付されたプロフィールを見ると著者は1965年生まれ。収録作品が雑誌に掲載されていたのは2005年から翌年にかけてなので、書かれている内容はどれも著者の実生活と密接に(私小説的に)結びついていると思われる。それは主人公の女性たちの職業が著者と同じフリーライターである場合が多いことからも窺える。それにしても実に赤裸々に、きれいごとを抜きにこうもイタイことが書けたなあと著者に感服する。なんて強さだろうと。

四十路にはまだ間があり、女性でもない自分でもこのリアルさには背筋が寒くなる。泣きたくなる。たとえば「取り扱い注意」の主人公(40歳、独身、恋人なし、出版社の副編集長)は仕事と結婚の問題についてこう独白する。
だが、これから誰かと出会って身ごもったとしても、最短で一年後の出産になる。いくら出産年齢が高くなっているとはいえ、そこからの子育ては考えただけでも気が滅入る。子供が物心つく頃には、四十代半ば、いやそれ以上になっているかもしれない。自分よりひとまわりも若い母親たちとつきあっていく体力も自信もない。年老いた母親になって子供に引け目を感じさせたくもない。子供を産むことで、ひとりを前提に培ってきた仕事や生活のペースが侵されるのも嫌だ。新しい雑誌も創刊したい。生活のレベルだって下げたくはない。
あたり前の結婚をして子供を産み、家庭を築いていく。私は本当はそれを望んでいたのだろうか。それとも、今のこの生活が私にふさわしいのだろうか。わからない。いくら立派な教育を受けても、いくら立派なキャリアを積んでも、その答えは出ない。
確実に時間だけが過ぎていく。

「確実に時間だけが過ぎていく」。この焦燥感に満ちた一節のなんと切実なこと。出産という問題があるぶん、同じ独り身でも男性より女性のほうがより加齢に対して切迫した危機感をもっているのだということが痛切に伝わってくる。

ひさびさに実家に帰省した「楽屋裏」の主人公(39歳、独身、フリーライター)の場合は。
大学卒業後、いくつかの職を経て、フリーランスのライターになった。だが、四十を目前にした今もその日暮らしで、先の展望が立たない。
「……まったく。どうするつもりなんよ、これから」。母はそういい終えると、すぐに鼾をかきはじめた。
こちらが訊きたかった。どうすればいいのだろう、これから。
毎月、仕事の依頼がくればそれを受け、こなしていくうちに時間だけが過ぎていった。気がつけば編集者たちよりひとまわりも上の年齢になっていた。かつて仕事を一緒にした編集者たちは、デスクや副編集長になって新たな人脈を広げている。私だけが変わらない。“失恋で立ち直る方法”や“恋をしてキレイになる秘訣”などという記事を毎月、毎月飽きもせず書いている。自分の書いた記事の通りに行動してみても、恋がうまくいったためしがない。


こういう小説は二十歳やそこらで味わえはしないだろう。若いときにしか理解できないものがあるように、年を経なければ理解できないものがあり、そしてたぶんそちらのほうが多いのではないだろうか。楽しめるものはきっとまだまだたくさんある。そう、お楽しみは、これからだ。
下半身はもっとひどい。風呂に入るたび、げんなりする。鏡に映ったたるんだ下腹、お尻から太股にかけての締りのない線を見てなんとかしようと強く誓ってみても、忙しさに紛れるうちにうやむやになってしまう。ダイエット器具を買っても、締め切りを終えたばかりのからだは食欲や睡眠欲に負けてしまう。そのツケがさらなる衰えを招くことはわかっていても、どうせもう出会いなんてないのだからと開き直り、自分を甘やかしてきた。

女性ではなく男性をモデルにした、このくらい「イタイ」小説が読みたい被虐嗜好のあるわたし。



409386179Xきょうの私は、どうかしている
越智 月子
小学館 2006-11-24

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
初めまして。ところでセックスボランティアは読まれましたか?
kawai
2007/12/30 21:19
>kawaiさん

はじめまして。いいえ、未読です。
epi
2007/12/31 10:40

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