epi の十年千冊。

アクセスカウンタ

zoom RSS 『火星年代記』 レイ・ブラッドベリ

<<   作成日時 : 2008/01/12 00:00   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 2

画像


そう、精神はつねに変化しているのだ。
このブラッドベリはもう一年以上も前から本棚にあり、二度ほど読み始めてはみたものの、二度とも途中で飽きがきて放り出していた。それを一年近くぶりにこのたび読み始めて、すらすらと読んでしまうのみならず非常な感興を覚えたことにささやかな幸福を感じている。

三度めを読み始めるきっかけとなったのは「坂のある非風景」の「はげしくてやさしい雨が降っている」という美しい記事だった。もう半年前になる記事だが、この記事がずっと胸を去らなかった。だからいずれこの小説を読もうと思っていた。誰かの書いた文章が燠のようにこちらのなかに残るということが、人生にはままある。
ある日の夕方、なぜ陽が落ちる瞬間に夕空は黒と青と橙色になって、こんな空は初めてだと言いながら子どもは携帯のカメラを向けたが、そのとき、フラッシュをどうするか考えていた。ああ、あんな彼方の空に向ってフラッシュを焚くこと、そんなものを私は書きたいと思った。

ブラッドベリの『火星年代記』に、すでに誰も住んでいない家に火があがり、すべてを燃やしつくしてゆくだけの短い章がある。火を消しとめる者もどこにもいない。そして灰燼に帰した街に雨が降り始める。その雨のはげしさ、やさしさについていつも語りたいと思った。


ページを開けば、行間から叙情のしずくが零れ落ちる。そして香りたつようなノスタルジア。これは26の連作からなる地球と火星をめぐるクロニクルだ。1999年にはじまり2026年に終る。

1999年、地球から最初の火星探索隊が出発する。しかし火星に到着したはずの彼らから連絡は途絶えた。続く第二、第三の探索隊も同じように消息を絶つ。なぜ? 火星人たちが彼らなりのもてなしかたで地球人たちをもてなしたからだ。しかし時を経、第四次探索隊が火星を訪れたときには、すでに火星人たちは大半が水疱瘡で死滅していた。ときに2001年。このころから徐々に地球から火星への移住が始まっていく。第四次探索隊のメンバーであるスペンダーは数千年の時をかけて独自の文化を発展させてきた火星を不遜な地球人たちが破壊するだろう未来を憂う。このあたりから本作の文明批評的な面が顕著になる(「月は今でも明るいが」「地球を見守る人たち」「百万年ピクニック」などの章)。ブラッドベリは決して科学技術の発達がもたらす未来を楽観視していなかったようだ。
彼(引用者注=ブラッドベリ)は、もし私が大変な読みちがいをしていないかぎり、その微光をはなつおどろおどろしい空想の霧を通して、一つの教訓をわれわれに与えようとしているのだ。その教訓とはつまり、宇宙飛行はいままだ机上のものであり、人類もまた、精神的には頑是ない子供であるということ――悲劇的な偶然によって発明されて、恐るべき玩具を持たされてしまった子供だということを教えているのだ。

クリフトン・ファディマン「まえがき・ノート」


最終的には地球は愚かな人類が最終戦争を始め、火星に移住してきた人々は故郷恋しさで帰還し、ほぼすべての人類が死滅する。かつての火星のように。生き残った一握りの人々が、新たなフロンティアである火星に戻ってくる。彼らが運河で火星人に出合う本作のラストは実に見事で賞賛するほかない。火星のアダムたちとエヴァたち。火星の父祖たち。彼らが新しい歴史を一からつくるのだ。もはや地球人はいない。どこにもいない。叙情的に、またときにユーモラスに書かれてはいるが、実際はこれは怖い小説なのかもしれない。そうも思える。


4150401144火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)
レイ・ブラッドベリ 小笠原 豊樹
早川書房 1976-03-14

by G-Tools



テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
「百万年のピクニック」ときいて、ときくだけで、涙が止まりません。そしてこの涙は、30年前に読んだときに流したものと同じ涙なのです。
M
URL
2008/01/12 03:10
>Mさん

ブラッドベリには叙情的、また幻想的な特質がありますね。ファンタジーのようなメルヘンのような。彼がアメリカ文学史上でポーの系譜に連なる一人とされているのに頷けます。
火星にはしかし行くよりも眺めているほうがよいなあという気がしました。
epi
2008/01/12 18:46

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
『火星年代記』 レイ・ブラッドベリ epi の十年千冊。/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる