epi の十年千冊。

アクセスカウンタ

zoom RSS 『僕の小規模な失敗』 福満しげゆき

<<   作成日時 : 2008/02/05 00:00   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

すべての内向青年は読むべし。

将来について何も考えずなんとなく入学した高校で周囲に溶け込めず挫折し中退。アルバイト生活で稼いだ金を貯めて一人暮らしをはじめるも長続きせず、定時制の高校に入り直したはいいが卒業するときには22歳だと知って愕然とし、社会に出たくないからという超消極的理由から大学進学を目指し、推薦枠を得てせっかく入学したのに環境に馴染めず自主退学。成人式や同窓会といった旧友と再会するイベントに行けば「みんなはバリバリがんばっているのに自分ときたらこのていたらくだ…」と落ち込むに決まっていると分かっていながらどうしても出席せずにはいられない。卒業後はろくに会っていない中学時代の友人たちの動向が気になってしかたない。好きになった女の子に猛アタックしたら「怖い」といわれストーカー呼ばわりされる。「もうダメだ…」「もうおしまいだ…」とことあるごとに呟きながらも、なんとかこれまで生きてきた。
いや、これはあなたのことでもわたしのことでもなくて、この漫画の主人公(=著者)のこと。こんなに弱っちくて格好悪い主人公ではあるけれど、しかし彼はひとつ漫画を描くことだけは決してやめなかった。
そして今も漫画を描いている。

漫画を描こうと思ったのは高校生のとき。中退後に友人と共同で借りたアパートで思う存分漫画を描こうと思ったのに、いざ環境を整えてみると一向に描けない。
なぜだろうと自問して出た答え。「僕はそもそも何が描きたいとかそーゆーのがない」「僕はマンガ家に憧れてるだけなんだ」
しかし本当は憧れだけではなかった。
好きになった女の子と紆余曲折の末、ようやく念願のデート三昧の日々を送っていた彼をあるときからもやもやが襲うようになる。もやもやの正体は単純なもの。
「マンガが描きたい…」
そう思ったらもう我慢できない。デート中なのも構わず、ファストフード店の店内でいきなり漫画を描き始める。「何をするの?」と訪ねる彼女を尻目にせっせと漫画を描き続ける主人公。「つまんな〜い」と彼女がごねれば(当然だが)「君も描きなよ」と紙とペンを渡す。「かけな〜い」という彼女を、「かける」と励ます。この場面はいいねえ。

この漫画の特徴は内向的な、あまりに内向的な若者のある面で病的なまでの葛藤にあるのだけれど、その葛藤の根は突き詰めると「バカなので将来が不安」と「女にモテない」の二つに集約される。たいていの人間の悩みなんてそんなものだろう。「先ず不安と言えば頭痛、絶望は定期をなくして困っている程度のことに解釈して置けば間違いない」と喝破したのはそういえば吉田健一だった。

このダウナーな作風はつげ義春の『無能の人』と通じる部分もあるように思うが、あの辛気臭さはない。似たような将来へのぼんやりとした不安を覚えても、いましろたかしのように「将来なんて知らんもんね」と開き直れもせず(『釣れんボーイ』)、また黒田硫黄の『茄子』の登場人物のように「人並みのことってできないといけないのかなあ」と脳天気でもいられない。そういう性格ではないのだろう。だって、こんな目を描く人だもの。


他人との比較のなかで自分の価値を計ることは苦しいとわかっていながらも、それを止すことができない。だから、同窓会と聞くときっと惨めな思いをすると予想しながらも出かけて行かずにはいられない。
でも、出てみればみんな大したことはないのだ。みんな社会でバリバリ働いている、なんていうのは主人公の妄想だった。
「将来の夢」という進路調査めいた作文を書かされた子どもたち。みんなが自分は、自分だけは特別だと、特別な人生を生きられる特権をもって生まれてきたと思っていた? 元・野球部のエースも、元・頭のいい学校に進学した美少女も、みんなフツーの、もっといえば微妙な未来を生きている。
だから、同窓会からの帰り道に主人公は独白したのだ。
みんな…大人になったんだよ…
そんなに高望みもせず…
おのれの力を過信せず…

……日々のきびしい生活の中で……
自分はヒーローなどではなかったのだと…
わかってしまったということか……
(それとも最初からそもそもそんなこと考えてなかったのかな)

なんだか…皆が…こうガァ〜っと成功して華やかになっててさ
落ち込んで…一人でみじめな気分で帰るほうがまだよかったな…

皆…塾に通ってきびしい受験戦争をくぐりぬけたはずなのに…
誰もたいした成果を得られてないみたいだったじゃないか…
(皆恋愛方向ばかりにウエートを置いてさ…あれじゃイカンよ…)

おい!お前(僕)!!
お前が人のこといえるのかっ!!
お前も皆とまるっきり同じ行動をとったではないか!
(しかもまるでモテなかったクセにさっ!)

わかってる…
わかってる…
ごめんなさい…

大人なんだよな…
みんな大人になったんだよな 
僕も 大人になったんだよな……



タイトルがいい。フツーの人間の人生には大イベントなんて起こらないのだから。起こるとしても小規模なものでしかないのだから。だからといって生きるのを止すわけにはいかないし、卑屈な気分になる必要もない。

そう、僕たちは残尿感を感じる為だけに生まれてきたんじゃない。


4883791955僕の小規模な失敗
福満 しげゆき
青林工芸舎 2005-09

by G-Tools


『失敗』の続編だそうで。
4063754170僕の小規模な生活 1 (1) (モーニングKC)
福満 しげゆき
講談社 2007-12-21

by G-Tools



488379136Xまだ旅立ってもいないのに
福満 しげゆき
青林工芸舎 2003-07

by G-Tools



4101328137無能の人・日の戯れ (新潮文庫)
つげ 義春
新潮社 1998-02

by G-Tools


475770948X釣れんボーイ
いましろ たかし
エンターブレイン 2002-07

by G-Tools


4063142728茄子 (1)
黒田 硫黄
講談社 2001-07

by G-Tools



テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
『僕の小規模な失敗』 福満しげゆき epi の十年千冊。/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる