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zoom RSS 『孤独のグルメ』 (原作)久住昌之 (作画)谷口ジロー

<<   作成日時 : 2008/03/18 00:00   >>

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吉田健一の『旨いものはうまい』同様、食うことは幸福に繋がっているのだということをしみじみと教えてくれる一冊。

大勢で食う食事は楽しい。気の置けない友人たちとわいわい騒ぎながら酒を飲み、鍋を囲んだり、焼肉やもんじゃを焼いたり。酒のおかげで舌が滑らかになれば話は弾むし、息ができなくなるくらい大笑いするのは人生の最高の幸福のひとつに数えてよいと思う。
翻って一人の食事はどうだろう。日本には男が一人で食事ができる店に事欠かない。牛丼チェーン店やラーメン屋などはその最たるものだろう。行って見回せば一人客がじつに多い。けれど一人で食事というと、どこか侘しさのようなものがつきまとう。二人なら行けるが、一人ではちょっと…と抵抗を感じてしまう店はある。寿司屋はまだしも、焼肉屋がそうだし、ちょっといいレストランもそう。

しかし一人でする食事のよい点は、「飯-自分」という関係になれるところだ。食うことに集中できる。いくら気心の知れた友人たちとはいえ、あるいは恋人とはいえ、俺は飯を味わいたいから食事中は話しかけないでくれ、とはいえない。二人以上の場には関係性の空気が発生する。そういえばKYなんて語があった。空気なんて読むもんじゃない、と個人的には思いたいのだが、なかなか難しい。

純粋に飯を味わいたいのなら、食うこと意外に気を払うべきではないと思う。だから一人が望ましい。なにも高級料亭の懐石料理の場合を指しているのではない。この漫画の主人公が行くような個人経営の飯屋であってもだ。

そう、この本書の主人公の井之頭五郎は、とにかく食うことが好きで、この漫画は彼のする食事の場面で成り立っている。舞台となるのはどこにでもあるような飯屋ばかり。いつも腹をすかせている(?)彼が偶然通りかかった店に入って、そこで食うものに一喜一憂するという、それだけの漫画なのだがこれがなかなか味わい深い。また路面店のほかにも、新幹線のなかで食うシュウマイ弁当や、大阪の屋台で食うたこ焼きも出てくる。井之頭五郎は昼間から一人で焼肉屋に行けるほどの猛者だ。

味について大仰な台詞を吐くようなことはない。あくまで冷静に、心のなかで独白するにとどまる。この独白がおかしい。
個人経営の食堂でぶた肉いためライスを食えば、「まるで小学校の土曜日に家で食べるお昼のようだ」といい、川崎の焼肉屋では、「うん うまい肉だ いかにも肉って肉だ」といい、秋葉原の公園でかつサンドを食えば、「ソースの味って男の子だよな」という。こういった台詞にしみじみとすると同時に、つい笑いがこみ上げてくる。「ソースの味って男の子」とは、わかるようなわからないような。

「孤独」とタイトルがついているとおり、収録された18のエピソードのすべてで井之頭五郎は一人の食事をしている。一人きりで食事をしているいい歳の男の背中はなんだか寂しそうといった意見もあるかもしれないが、彼にはそんな惨めな気配は微塵もない。逆に、一人でとる食事を存分に堪能している。

ある場面で彼はいうだろう。
「モノを食べるときはね 誰にも邪魔されず
自由でなんていうか、救われてなきゃあダメなんだ
独りで静かで豊かで…」
この台詞は格好いいねえ。この台詞になにも感じない人は、井之頭五郎とも、一人でする食事の豊かさ(楽しさとはいわない)とも無縁だろう。

本書に出てくるお店はどれも実在のモデルがあるようで、そこを訪れたファンの方たちのレポートもネット上で見られる。赤羽の、朝九時から営業している飲み屋さんに一度行ってみたくなった。いったいどんな風景なんだろう。どんな空気なんだろう。


459402856X孤独のグルメ (扶桑社文庫)
久住 昌之 谷口 ジロー
扶桑社 2000-02

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you tubeに実写版『孤独のグルメ』が投稿されている。漫画の読者は細部の描写、独白の組み合わせににやりとするのではないか。読んでいない方にはあまりおもしろくないかもしれない。


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