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zoom RSS 『結婚の条件』 小倉千加子

<<   作成日時 : 2008/04/05 00:00   >>

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少子高齢化社会といわれて久しい。ヨーロッパと違い婚外子の率が非常に低い日本においては少子化とはすなわち未婚者の増加を示す(日本は「できちゃった婚」という変った結婚制度のある国で、著者はこのシステムから、日本は「結婚の中でしか子どもを生んではいけない」という強迫観念のきわめて強い国だと述べている)。つまり少子化問題の背後には未婚の男女の問題があるわけで、彼らはなぜ結婚しないのか、を主として女性の側の視点から分析する。

わたし自身、いい歳して未だ独り者である。周囲には結婚している友人もいるが、していない友人も多いので焦りはない。元来が暢気なたちでもある。べつに主義があってそうしているのではなくてただなんとなく未婚のままずるずる来てしまった、というのがわたしの現状であって、ほかの同世代の未婚の男女もおおかた似たようなものではないだろうか。端的にいえばろくに探す努力もしていないくせに「いい人がいない」と嘆いている…そんなパターンが多そうな気がする。

わたしはともかく、本気で結婚したい人は頃合を見て恋愛相手を探すのはやめて(あるいは並行して)お見合いなり結婚情報サービスに登録するなりすればいいのに…という趣旨のことを前回書いた。本気でそう思っていたから。なぜそう思っていたかというと、私が「女心を知らなさ過ぎ」たからだと、本書を読んで発見。
恋愛と結婚が同じだと思うのは「ロマンティック・イデオロギー」に染まっている古いタイプの人だ。結婚相手に求める条件と恋人に求める条件は違う。それなら条件で選べる見合いで相手を探せばいいじゃないかという意見は、あまりに鈍感で女心を知らなさ過ぎる。見合いしてまで結婚するなどということは、つまり目的的に結婚することなど、プライドが邪魔してできないのだ。恋愛結婚のような「自然な出会い」で結婚に辿りつきたい。


女子学生の結婚相手に求める条件は、打算を隠蔽したものである。無私無欲でイノセントな部分を印象づけないと女性のジェンダーは評価されないから、打算はなんとしても隠しておかねばならない。そこで状況はややこしくなってくる。モノ欲しそうにしないで、すべては「偶然の出会い」によって起こったようにしなければならない。合コンは友人に誘われて初めて来ましたとか、結婚情報サービス会社に登録するのは土壇場の選択肢で、そこまでして結婚したくないとかは、多くの女性が口にする。


面倒くさいというか捩れているというか大変そうだなあというか、いろいろと感慨はわくがわくだけで終わるのはわたしが鈍感だからだろう。むしろ以下のような文章にこそ共感する。
しかし自分から積極的に出会いを求めるのではなく、神様が自分の上に誰かとの出会いをプレゼントしてくれると思うのは、贅沢と安楽に馴れた今どきの若者の性癖かもしれない。
「恋愛の鉄人」と周囲の誰もが認める人は、天からプレゼントが落ちてくるのを漫然と待っていたりはしない。あらゆる場所で、あらゆる人を密かに観察し、意図的と思われないようなやり方で近づき、そして相手を「落とす」のである。(略)恋愛はそういう意味では、確かに一種の才能である。世の中には、恋愛の才能のある人とない人がいるのだ。そして、才能のない人にとって最大の夢が「自然な出会い」なのであるが、才能のない者同士の間には、いつまで待っても恋愛は発生しない。


小谷野敦氏が『もてない男』に書いていたとおり、そもそも恋愛は誰にでもできるものだと思い込むこと自体が間違いなので、向き不向きは確実にある。だからといって、「向いていないから恋愛するのは止そう」となれないところが人間の悲しい性だ。


さて著者は調査の結果、女性の結婚意識の差異は最終学歴によって際立つと述べる。最終学歴にはその女性の出身階層が反映されているから。リストラによって上場企業をクビになる管理職がいれば、ネット上の株取引で月に数百万以上稼ぐ若者もいるような階層のボーダーレス化が起きている昨今、最終学歴=階層と単純にいえない気もするがまあそれはそれとして、「高卒者」「短大卒者」「四大卒者」の三種類に分類して、彼女らの結婚意識を分析する。

「高卒者」の場合=「生存」目的
彼女らは就職してもその賃金だけで生活していくのは苦しく、彼女たちの結婚は自身が生き延びるための手段となる。

「短大卒者」の場合=「依存」目的
腰掛的に仕事をして、いい男を見つけたら仕事は辞めて専業主婦として家庭に入り、育児から手が離れたら「自己実現」のための勉強やら仕事やらをしたいと望む(ただし生活費は夫の収入でまかなうつもりでいる)。このパーソナリティは短大の数が減少した現在では、四大の中堅以下の大学の女子大生のパーソナリティにそのまま移行している。

「四大卒(就職は専門職)」の場合=「保存」目的
彼女らは「勝ち組」であるので、結婚する相手には経済力以上にいまの自分のライフスタイルや価値観を受け入れてくれることを条件にあげる。

四大卒で専門職についている女性の数なんてたかが知れていて、大半の女性は「依存」目的、また高卒者に限らず四大を出ていても、この全入時代ではどちらもそう大差ない気もする。超氷河期世代には、いい大学を出ていて30歳を過ぎているのに派遣やフリーターをしている人は男女を問わず相当数がいるとされている。ゆとりのある階層の男女がくっつき、ゆとりのない男女はそれぞれ離れたままでいる。少子化がどうのといったところで、それ以前に結婚ができない層がいることを認識しなくてはいけない。階層格差はこれからますます拡大するだろうと見られているのだから。


上記の理由から女性が結婚する男性に求める条件の第一位はいうまでもなく経済力である。女子学生たちは作文に「わたしが男性に望む経済力はそんなに大きいものではない」と書くが中身はというと、妻と子ども二人が安心して暮らせ(子どもには小さいときから習い事をさせ、二人とも私立大学を出させる)、月一回の外食(回転寿司ではなくお洒落なイタリアンで)、年に一回は海外旅行に行ける程度の収入でいい――って、どこのお姫様ですかあなたは。こういう主婦願望のある女子学生に限って料理はろくにしたことがなかったりする気がするのだが、これはまあ偏見ですよすみません。
男子学生のほうはというと、料理ができて、できれば美人で、自分が帰宅したときには家にいて迎えてくれる人(専業主婦)がいい、とのこと。はい、女子も男子もどっちもどっちですね。著者のいうとおりだ、「こういう条件がものすごく高望みでなくてなんであろうか」。これでは晩婚化が進むのも当然だ、って当事者のわたしがいってはいけないのか(完全に他人事モードだった)。

調査対象へのアプローチがやや浅かったり、出版当時(2003年)と今では少し状況も異なると思える箇所もあったけれど、さらりと読めながら重い部分もあり、単純に読んでよかったと思える一冊だった。「就職と結婚の類似」や「『カネ』と『カオ』の資源交換としての結婚」や「有閑階層による『消費としての労働』」などについても思うところがあったのだけれど面倒なので書くのは止す。


女子学生は、現在の自分の生活水準を保障してくれる男を探し、男子学生はユートピア的場所となる女を探す。しかし、そんな理想の相手はどこにもいない。いやしかし、理想の相手を見つけて幸福な結婚をしている人が現にいるではないか。自分はなぜそこから締め出されるのか。なぜ夢を追ってはいけないのか。夢を実現した一部の者への復讐の時代がこれからはじまると、私は密かに覚悟しているのである。


男も女もしたいのは「幸福な結婚」であって、「不幸な結婚」ならしないほうがマシと思っている、ということを知らないと問題を見誤るだろう。
おめでとう、松井(秀喜)夫人。


402257884X結婚の条件
小倉 千加子
朝日新聞社 2003-11-14

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4022643862結婚の条件 (朝日文庫 お 26-3)
小倉 千加子
朝日新聞社出版局 2007-01

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4480057862もてない男―恋愛論を超えて (ちくま新書)
小谷野 敦
筑摩書房 1999-01

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
1年以上ご無沙汰しておりましたポトフです。
epiさんは相変わらず力の入った書評を書き続けていてすごいなぁ…
そして相変わらず独身なのですな。ふふふ

恋愛とか出会いとか、なんか特別なことのように言うけれど、それってつまりは何かを「好き」になれるかどうかという一点にかかっているのではないかと思います…。あまたいる異性の中から誰を選ぶかなんて、本当は選択肢はいくらでもあるわけですが、そこでたまたま誰かにピンとくるためにはある種の精神状態が必要かなと。本であれ音楽であれ、はたまた筆記用具でもアイスクリームでもなんでも、何かいいものに出会った時「私はこれが好きだ・これを選ぶんだ」とはっきり思える心の軽快さとでもいいましょうか。




私は大学で法律学の本とか政治学の本とかばかり読まされて、小説がなかなか読めません(泣)



ポトフ
2008/09/24 00:41
知り合いの顔を思い浮かべては、あの人はちょっと、この人も微妙、やっぱり身近にはいい人がいないなあ〜…なんて溜め息をつくのではなく、毎日を一生懸命生きて、はずむ心を持って多くの人と交わっているうちに、いつのまにか誰かに惹かれていたりする―そういうものだと思います。

「自分磨き」という言葉をよく目にしますが、これも本当はモテキャラになるためとか愛されキャラになるためじゃなくて、自分の心の容積を大きくしてセンサーの精度を上げることで、自信を持って・能動的に何かを好きになれるようになり、その結果として恋のチャンスも増える。という意味ではないかな…というのが最近の私の実感です。

(「私は大学で〜」のところは書きかけて消し忘れたままUPしてしまいました(汗))
ポトフ
2008/09/24 00:44
>ポトフさん

おひさしぶりです。コメントをいただけるのは一年ぶりですか。月日の経つのは早いですねえ。

出会いおよび恋愛に関してのポトフさんのご意見は健全かつほぼ正論ではないでしょうか。恋愛をするにはそのモードになる必要があるわけで、必要なしに過ごしている人間はモードの切り替えができません。というかしません。
恋愛は精神の特殊な状態のひとつで、双方の精神が同時に発火した状態だと書いた作家がいました。お書きになっているとおり「選択肢はいくらでもある」うちからただの一人を選ぶことの責任を引き受けるということでもあります。

でもこうして愛について述べるときそこに愛はあるのでしょうか。ないかもしれません。「愛についての言説」と愛との違いは。
あるブログがこの点について述べています。
http://freezing.blog62.fc2.com/blog-entry-521.html


epi
2008/09/27 11:44
「自分を磨く」ということは知識にせよ感覚にせよ経験にせよ人の「容積を大きく」するもので、その結果わからないことが理解できるようになり、生きていることが楽しくなるでしょう。人間のすることのすべては結局は生きていることを楽しくするためのものなのかもしれません(消極的な楽しさというのもあるかと思います)。いつも上機嫌でいられる、そういう人を君子と呼ぶのでしたっけ。ちょっと憧れます。
epi
2008/09/27 11:52
上記のブログ、行ってみました。ここでもお見かけする方ですね…。「言葉」を使って気持ちを整理しようという試みは常に自分との対話でしかなく、その時考えていたことと、現実に相手を目の前にして生まれる関係性やリアルタイムに動かされる自分の感情との落差に眩暈がしそうになることがよくあるなと思いました…。
でも人は言葉で考えたり語ったりせずにはいられない――こうしていろいろ書くこと自体、生身のもの・一瞬一瞬のものから乖離した堂々めぐりなのかもしれない、とも思いつつ。
正論、ですか…他の方々のブログを読んでいて気付いたのですが、私は言葉の海に浸かり込んでしまうことを無意識に避けているようです。詩的に突き詰めるよりも健全に生きることに価値を置いているのか…(元々人間が浅いのは仕方ないとして)私なりの護身のような気がします。若いから?法学をやってるせい??あまり関係ないか…(^_^;)



ポトフ
2008/09/27 16:19
>ポトフさん

言葉に裏切られた気がするのは誰にも経験あることだと思います。それなくしては規定できないのに足らぬがゆえに、知らぬがゆえに他者に(もしかしたら自分にすら)届かずに、発せられたと同時に空に消えてしまった思いがあります。その残骸の堆積が読むことや書くことといった言葉を追いかける行為に自分を駆り立てます(でも話すことには向かないという…)。そんなこといってもこの程度なのですけれどね。

法学を勉強されているポトフさんにはわたしの書くものはあまりに飛躍が多すぎるでしょう。そう思うと恥ずかしいなあ。なぜかそうなってしまうのは自分の書くものが自分に追いついていないのでしょう。

ああ、ところでこの記事は結婚に関したものでした。恋愛については未だによくわからないのですが、結婚は修道院に入門?するような行為なのだろうなあと今は想像しています。妻になったある女性にそういったら「ネガティヴね」と笑われましたよ。
epi
2008/09/28 01:51

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