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『考える人』2008年春号の特集は「海外の長編小説ベスト100」。 主に作家、文学者129名へのアンケート「私の『海外の長編小説ベスト10』」を集計してベスト100を選ぶというなんともわくわくする特集で、しかもアンケート回答者も豪華な顔ぶれ。池内紀、亀山郁夫、河野多恵子、鶴見俊輔、中井久夫、沼野充義、野崎歓、堀江敏幸、松浦寿輝などといった名前を見つけたらもう胸が高鳴るのを抑えられない。
さっそく肝心の集計結果を。 1位 『百年の孤独』 ガルシア=マルケス
リーダビリティ、規格外の面白さと斬新さ、20世紀後半の文学史上の位置を考えれば一位なのにも納得。決して難解ではなく誰が読んでも楽しめる娯楽性の高さももっている。「読んで想像する」ことが小説のもっとも原始的な楽しみかただとすれば、それを満喫させてくれる極上の一冊だ。 2位 『失われた時を求めて』 マルセル・プルースト
カフカ、ジョイスと並び20世紀を代表する作家の大長編。タイトルは聞いたことがあってもあの長さ(集英社文庫で全13冊)に尻込みする読者は多いはず。じっさいに読み始めても、ベッドのなかでうとうとする場面がえんえん続くのに面食らって投げだしてしまったり。しかしこんなに豊穣な体験(まさに体験である。主人公は話者であると同時に読者でもあるのだから)をさせてくれる小説はほかにない。一ヶ月一冊で一年かけて読むというのもありだと思うが、できればほかの本は一切読まず、没頭するほうが読みやすいかと思う。読了のコツとして、第三篇「ゲルマントの方」のドレフュス事件のあたりは斜め読みなり抄訳版の助けを借りるなりして乗り切ること。ここを越えれば第四篇以降はめくるめく性愛と恋愛の世界が展開され、読みやすくなる。 3位 『カラマーゾフの兄弟』 ドストエフスキー
小説はこれを読まずして何を読むのか。亀山郁夫氏による新訳は読みやすいうえに解題が充実しているので未読の方もかつて読んだ方も、このバージョンを選ぶとよいと思う。人間のうちに潜む神性と獣性、信仰と情欲、エゴや悪意や崇高さを「ある家族」たちの物語として読む。どうしてDSTの小説はぜんぜん古びないのか。いや、古びないどころか常に現代の小説として屹立し続けていられるのか。考えてみるとおかしな気がする。 4位 『ドン・キホーテ』 セルバンテス
世界各国の作家による投票で1位に輝いたのが本作。書かれた時代を考えると後篇のメタ構造には度肝を抜かれるが、しょうじき読むのが苦痛だった一冊でもある。ギャグのネタがワンパターンなのと、何事も語り(=騙り)による展開に辟易してしまった。この小説のユーモアは主人公の狂気を嗤うことによって成っている、その残酷さを忘れてはいけないと思う。 5位 『城』 フランツ・カフカ
カフカから一冊を選べ、といわれても難しい。たぶん多くはこれか『審判』か『変身』のどれかになるかと思われるが、カフカはそのすべての作品をひっくるめて「カフカ」という一篇の作品であるという気がしてならないのでどれを選んでも一部だけを取り出したような奇妙な居心地の悪さが残る。本作は著者最後の長編であり、結核の療養のために入院したサナトリウムで書かれた。これに先立つ『失踪者(アメリカ)』『審判』同様に未完。前二作と比べると始まり→終わりという一方的な構造ではなく、反復によって小説世界の広がりが増しているのがわかる。未完で終らざるを得なかったとしてもせめて「城の娘」との対面の場面までは読みたかった…。 6位 『罪と罰』 ドストエフスキー
「人間は凡人と非凡人に分けられ、非凡人は何をしても許される」。「害毒をたらすしらみ」である強欲な高利貸しの老婆を殺害してその金を奪ったとして、その金を今度は貧しい者たちのために使うとするなら、それは許される犯罪ではないのか。確信をもって老婆殺害を実行した大学生のラスコーリニコフが直面することになる「罪」と「罰」の意識。しかし何が「罪」で何が「罰」であったのか。 徹夜で読み耽り、読み終えたあと興奮して壁に文庫本を投げつけた。壁に穴があくかと思ったのだが、それは不細工に広がって床に落ちただけだった。 7位 『白鯨』 メルヴィル
この岩波文庫版の翻訳がよいらしい。読んでいないので何も書けません。 8位 『アンナ・カレーニナ』 トルストイ
ロシア最大の文豪によるメロドラマ。ほんと、これは昼メロ的世界だと思う。比較するのはどうかと思うがDSTと比べるとこちらはいかにもまっとうな、19世紀的な小説だという気がしてくる。DSTの小説はリアリズム的な観点から見たら明らかに異形の小説なのだ(登場人物たちの肉体性や時間感覚など)。わたしにはあまり面白くなかったけれど、ついついだらだら読み続け、気付いたら読了していた。しかしもう一度読みたいかと聞かれたらたぶん否と答えると思う。この小説については『考える人』のなかの丸谷才一氏の意見に共感した。 9位 『審判』 フランツ・カフカ
「犬のようにくたばる!」という名言が出てくる。カフカについては上の『城』のところで書いたので繰り返さない。否定し続けることで小説のなかに無限性を創出した作品、とは坂内正氏の言。 10位 『悪霊』 ドストエフスキー
またまたDSTか。だんだん飽きてきた。「革命運動のカリカチュア」とは以前から言われてきた評。これに登場するシャートフはDST作品に出てくる登場人物のなかでいちばん好きだ。狂女のマリヤはなぜシャートフの「こわい髪」を櫛で梳いてやったのか。中村健之介氏による解説を読んだときは胸が熱くなった。DSTファンの間では人気のスタなんとかいう男がたしか出てきたかと思うが、これはひ弱なお坊ちゃんで、支離滅裂でよくわからない男で、最後には女に泣きついた挙句首を吊るという何がしたいのか意味不明でまったく興味がもてない。 11位 『嵐が丘』 エミリー・ブロンテ
二度読んでいるがこの前のバージョンの新潮文庫だった。内容に関してはほとんど憶えていなくて、ヒロインがやたらとヒステリックだったのとヒースクリフが傲慢だったくらいしか記憶にない。たしか全編が召使の語りの形式になっていたような。幽霊も出てきたか。あやふやな記憶しかないがまた読みたいという気はしないし、二度読んで憶えていないのだから相性も悪いのだろう。金がろくにない学生のころはこうやって面白いとも思えない小説を再読したりしていた。 12位 『戦争と平和』 トルストイ
この新訳が読みやすいらしい。読んでいないので何も書けません。 13位 『ロリータ』 ナボコフ
表紙がすてき。 読んだけれどよく憶えていない。アメリカを舞台にしたロード・ノヴェルであり、幼いニンフェットに憑かれた中年男の哀しい恋愛小説でもあり、言葉遊びやミステリ的謎解きの要素もあったかと思うがもはや記憶はおぼろ。そんなに前に読んだわけでもないのに。 「ロリコン」の語源として人口に膾炙しているけれども実はかなり前衛的で難解な小説。訳者もどこかで述べていたが一読したくらいで理解できるような代物ではない。わたしには難しすぎました…。 こうして見るとまあ順当なランキングではないだろうか。ドストエフスキーが三冊も入っているので面白みに欠ける気もするが。ちなみにこのあと14位はジョイスの『ユリシーズ』、15位はスタンダールの『赤と黒』と続く。野崎歓氏による新訳も出た、あんなに面白くて感動的な『赤と黒』が10位以内に入っていないのか…。
さて以下は個人的に気になる方のランキングをちょっとピックアップしてみた。 ■池内紀選 @ 『魔の山』 トーマス・マン A 『ヴェルギリウスの死』 ヘルマン・ブロッホ B 『ロリータ』 ナボコフ C 『百年の孤独』 ガルシア=マルケス D 『兵士シュヴェイクの冒険』 ヤロスラフ・ハシェク E 『城』 フランツ・カフカ F 『ブリキの太鼓』 ギュンター・グラス G 『オブローモフ』 ゴンチャロフ H 『眩暈』 エリアス・カネッティ I 『田舎司祭の日記』 ジョルジュ・ベルナノス ■中井久夫選 @ 『海底二万里』 ジュール・ヴェルヌ A 『シンネエヴェ・ソルバッケン(日向丘の少女)』 ビョルンスティエルネ・ビョルンスン B 『クオ・ヴァディス』 シェンキェヴィッチ C 『ブッデンブローク家の人びと』 トーマス・マン D 『ニルス・リューネ』 イェンス・ペータ・ヤコブセン E 『1984年』 ジョージ・オーウェル F 『未来のイヴ』 ヴィリエ・ドゥ・リラダン G 『ガリヴァー旅行記』 ジョナサン・スウィフト H 『幼年時代』 ハンス・カロッサ I 『城』 フランツ・カフカ ■沼野充義選 @ 『カラマーゾフの兄弟』 ドストエフスキー A 『戦争と平和』 トルストイ B 『百年の孤独』 ガルシア=マルケス C 『チェゲムのサンドロおじさん』 イスカンデル D 『巨匠とマルガリータ』 ブルガーコフ E 『フェルディドゥルケ』 ゴンブローヴィッチ F 『存在の耐えられない軽さ』 クンデラ G 『妖精たちの夜』 エリアーデ H 『賜物』 ナボコフ I 『ソラリス』 スタニスワフ・レム ■野崎歓選 (順位なし) 『赤と黒』 スタンダール 『デイヴィッド・コパフィールド』 ディケンズ 『感情教育』 フロベール 『戦争と平和』 トルストイ 『カラマーゾフの兄弟』 ドストエフスキー 『失われた時を求めて』 プルースト 『魔の山』 トーマス・マン 『選ばれた女』 アルベール・コーエン 『アレクサンドリア四重奏』 ロレンス・ダレル 『長いお別れ』 チャンドラー ■堀江敏幸選 (順位なし) 『浮かれ女盛衰記』 バルザック 『失われた時を求めて』 プルースト 『夜の果てへの旅』 セリーヌ 『魔の山』 トーマス・マン 『特性のない男』 ムジール 『八月の光』 フォークナー 『アレクサンドリア四重奏』 ダレル 『白鯨』 メルヴィル 『デヴィッド・コパフィールド』 ディケンズ 『ハドリアヌス帝の回想』 ユルスナール ■松浦寿輝選 @ 『魔術師』 ファウルズ A 『アレクサンドリア四重奏』 ダレル B 『嘔吐』 サルトル C 『恋愛のディスクール・断章』 バルト D 『木曜日の男』 チェスタートン E 『ナジャ』 ブルトン F 『モロイ』 ベケット G 『ブライヅヘッドふたたび』 ウォー H 『アルゴールの城』 グラック I 『たのしい川べ』 グレアム 中井久夫氏選の『未来のイヴ』、松浦寿輝氏選の『たのしい川べ』、いいねえ。
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初心者でもわかる小説の読み方 2008/04/27 17:52 |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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凄い読書量ですね。こうして識者が選んだベスト10の |
kz 2008/05/11 15:39 |
>kzさん |
epi 2008/05/13 07:03 |
凄いですね。僕ももっと本を読みたいです。参考になりました。 |
kz 2008/05/13 18:37 |
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