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zoom RSS 『偏愛文学館』 倉橋由美子

<<   作成日時 : 2008/04/26 00:00   >>

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倉橋由美子氏が偏愛する小説39冊を取りあげて自由に闊達にその魅力について述べた一冊。偏愛の範囲は広く、漱石や鴎外のようないわゆる文豪の文学作品から、宮部みゆきやパトリシア・ハイスミスのようないわゆる娯楽小説まで及ぶ。

書評本の感想を書くというのも妙なものだが、こうして読んだ本に関するblogを書いていると思うことに、自分の記事を読んだ方に、扱った本に興味をもってもらいたいというのがあって、また本の感想など書くのならそこを目指すべきで、優れた書評はすべからく未読、既読を問わず「読んでみたい(再読したい)」と思わせる魅力をもっている。Amazonのレビューにも面白い書き手がいて、乗せられたが期待はずれだったということもあったが、そういうときには内容よりもむしろ紹介のほうが魅力的なのだからそれはそれで見事だと感心した。それで本筋に戻ると、倉橋氏による本書も、読みたい欲求を読者に起こさせるすぐれた書評本だ。

倉橋氏は読書についてこう述べる。
世の中には、好きでなくても読んでなくても、建前上これは立派だとしておかなければ具合が悪いような名作(実は単に有名な作品のこと)や大作(実は単に長大な作品のこと)が沢山あります。しかし好きでないということは、本音をいえば、大した作品ではないと、腹の中で一蹴していることを意味します。本当に私の好みに合うものはわずかしかありません。したがって、大多数のものは私にとってはどうでもいい駄作、凡作だということになります。評論を仕事とする人なら、駄作はその駄作たるゆえんを指摘し、問題作はその問題たるゆえんを解説してみせなければなりません。御苦労なことです。私にはそんな仕事をする理由もないので、嫌いなもの、駄目だと思うものについては黙っていることを原則とします。

世の中に名作といわれるものは数多いけれどもそのどれもがこちらのハートをつかむとは限らなくて、そこには匂いや味や異性に対するのと同じく個々人の好みがはたらき選別を行う。なるほど名作と呼ばれるもののうちにも素晴らしいものはある。でも退屈なもの、自分には合わないものもたくさんある。そういうのは読めばわかる。そしてただの趣味の本読みである人間はきらいなものにわざわざ付き合う必要はまったくなくて、本を小説だけに限ってもその数は数え切れないほどあるのだから目をほかに向ければいいだけの話だ。何にしても好きでないものと付き合うほど精神衛生上悪いものはない。時間と気力の無駄でしかない。

倉橋氏のいう偏愛の条件とは「再読できる」ということだそうで、たしかに好きな本は時間を置いてまた読みたくなる。読み終えたあともたびたび拾い読みをしたくなる。そういう本だけを本棚に残すべきだと思っているが、ひとつ不便なのは実際読んでみないことにはそれが分からないということで、他人がどれほど絶賛しようとだから結局は自分の頭で判断するほかない。これはほかの何かについてもいえるかもしれない。最後は自分で決める、ということ。

本書で取り上げられる作家のうち、とりわけ倉橋氏の偏愛ぶりがよく伝わってくるのはジュリアン・グラック、イーヴリン・ウォー、吉田健一の三人。この三人はそれぞれ二作ずつが選ばれており、書評も熱がこもっている。海外の名作文学の長編ではトーマス・マンの『魔の山』とジェイン・オースティンの『高慢と偏見』が選ばれている。ほかにハイスミスの『太陽がいっぱい』や上田秋成の『雨月物語』やカフカの短編や宮部みゆきの『火車』や杉浦日向子の『百物語』、意外なところでは太宰治の『ヴィヨンの妻』も入っている。嬉しかったのは福永武彦の『海市』だろうか。少しまえに『死の島』を読み返して以前ほどこの作家に魅力を感じない自分に気付いて意外だったのだが、倉橋氏による書評を読んでまた読んでみたい気にさせてくれた。それにしても北杜夫の『楡家の人びと』はそんなにも美味しい小説だったのか。無人島に持っていく一冊の最有力候補とまで絶賛している。ここで紹介された本のすべてを読みたいとは思わないけれどもいくつかは興味をそそられた。それにしてもジュリアン・グラックの章はふたつとも圧巻。どうしても読めない『アルゴールの城にて』をまた手にとりたくなった。
なお、本書の内容は一部『あたりまえのこと』と重なる。


4062129507偏愛文学館
倉橋 由美子
講談社 2005-07-08

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4022643412あたりまえのこと (朝日文庫)
倉橋 由美子
朝日新聞社 2005-02

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