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zoom RSS 『楽園への疾走』 J・G・バラード

<<   作成日時 : 2008/05/13 00:00   >>

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美しくも倒錯した破滅的な世界が展開される。

十六歳の少年ニールは、タヒチ海に浮かぶサン・エスプリ島でアホウドリをはじめとする絶滅危惧種の動物を保護する運動に参加していた。この運動を率いているのは中年の英国人医師バーバラ。彼女やニールらの働きはひょんなことから世間の耳目を集めることになり、彼らに同情した世論によってサン・エスプリ島で予定されていたフランス軍の核実験は中止される。時の人となったドクター・バーバラは島を自然保護の理想郷にしようとする。だが、状況は次第に狂っていき、暴力と狂気が島全体を飲み込む。ドクター・バーバラが真に保護しようとしていたのはアホウドリではなくて実は…。

温暖で自然に恵まれた無人島は大洋のただ中で孤立したポイントでもある。数日分の食料がなければ島を出ることもかなわない。この状況下で少しずつ、ドクター・バーバラの狂気が暴走しはじめる。ニールをはじめとする運動のメンバーたちは、彼女のグロテスクな計画に利用されるためだけの存在でしかなかったのだ。奇怪な、「生」の実験に。

気だるい熱帯の島で徐々にドクター・バーバラの狂気に伝染していく人々を眺めていると戦慄を禁じえない。物語の序盤であれほどニールに好意的だった人々は終盤では別人のように冷酷なっている。この豹変ぶり。
そして死。暴力と流血が繰り返される終盤の展開には息を呑む。ニール同様に読んでいる側もドクター・バーバラの狂気に追い詰められていく。ページを繰る手も早くなる。

強い者だけが生きる権利がある。
シンプルで原始的な論理だ。ラストシーンの、血と内臓にまみれて刃物を振り回す女医の姿が鮮烈に印象に残る。そう、本作は非常に映画化に向いているのではないか。島の墓地でニールがある物を発見する場面などはかなり緊迫した画になるのではないか。

何にせよ、使い古された言葉だが、人間がいちばん怖い。狂った人間が一見まっとうに見える運動にのめり込んでいったら…。


4488016472楽園への疾走 (海外文学セレクション)
J・G・バラード 増田 まもる
東京創元社 2006-04-22

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