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zoom RSS 『夜の来訪者』 プリーストリー

<<   作成日時 : 2008/05/24 00:00   >>

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サスペンスフルな展開に息つく暇もない。イギリスの劇作家プリーストリーによる三幕の戯曲。

舞台は裕福な実業家、バーリング家の屋敷。今夜、この家の娘が同業他社の御曹司との婚約を交わした。しかし突如、彼らのもとに警部を名乗る男が訪れ、幸福な雰囲気は一変する。謎めいた警部はある若い女が服毒自殺を遂げたと告げ、彼女の死に、この場にいる者たち全員が深く関わっていると語りはじめる…。

死んだ女の名はエヴァ・スミスといった。はじめは彼女との関係を否定していたバーリング家の者たちを、警部は尋問の末に一人ひとり追いつめていく。その過程で明らかになるのは、不運と貧しさによって人生を破綻させた、若く美しい女の横顔だ。
エヴァ・スミスとは誰であるのか。大どんでん返しによって幕を閉じる本作を読み終えたあとも、その疑問は氷解しない。

1947年発表の本作の舞台となっているのは1912年。第一次世界大戦がはじまる二年前にあたる。作品のなかでバーリング氏は「戦争が起きるはずがない」と弁舌をふるっているが、この無慈悲な資本家の言説にはひとりよがりで皮相な価値観が透けて見える。実際、エヴァの破滅はこの男による解雇からはじまったのだ。

巻末の解説によるとプリーストリーのスタンスは社会主義的だったそうで、その片鱗は作中では警部の台詞のうちに散見される。
警部 わたしもときおり、そういうふうに考えたことがありますよ。それどころか、こう思ったこともあります。みんながときどき、みすぼらしい、狭い、裏手の寝室で小銭を数えている若い女性たちの立場になってみたら、少しはためになるんじゃないか、とね。


警部 わたしたちは一人で生きているのではありません。わたしたちは、共同体の一員なのです。わたしたちはおたがいに対して責任があるのです。そして、みなさんに申し上げます。もしも、人間がその教訓を学ぼうとしないなら、かれらは、火に焼かれ、血を流し、苦しみもだえながら、それを学ぶときがくるでしょう。


本作最後の、バーリング氏による台詞に鳥肌が立った。未読のかたのために詳述はしないけれども、いったいあれは何だったのか。おそろしい結末だ。
そして読者は知るだろう。われわれの何気ない、ほんのちょっとした些細な悪意が、ときとして連鎖し、それが一人の人間の一生を滅茶苦茶にしてしまうこともありえるのかもしれない、と。


400322941X夜の来訪者 (岩波文庫 赤 294-1)
安藤 貞雄
岩波書店 2007-02

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