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zoom RSS 『響きと怒り』 フォークナー

<<   作成日時 : 2008/08/08 00:00   >>

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20世紀のアメリカ文学を代表する作家による、暑苦しくて鬱陶しい、ある家族の愛憎と没落の物語。

語られるのは著者の故郷をモデルに創造された架空の町、ミシシッピ州ヨクナパトーファ郡ジェファソンで暮らすコンプソン家の人々の物語だ。かつては隆盛を誇った裕福な一族だったが、小説中の現在では退廃と没落の気配が濃く漂っている。家族構成はアルコール中毒の父、病弱な母、ハーヴァード大学で学ぶ長男クエンティン、奔放な性格の長女キャディ、次男のジェイソン、白痴の三男ベンジャミン(ベンジー)となっている。

小説は四章から成っており、各章ごとに視点人物が変わる。
第一章「1928年4月7日」は三男のベンジャミン。障害者であるので彼の語りは曖昧で錯綜する。彼はつねに失われたものの記憶、とりわけ今は出奔して会えない姉キャディの思い出を反芻しながら生きている。
第二章「1910年6月2日」は長男のクエンティン。ハーヴァード大学で学ぶ学生で、妹キャディへの近親相姦幻想に憑かれている。第二章は彼が自殺をする一日の物語だ。
第三章「1928年4月6日」は次男のジェイソン。高等教育を受けられず、ジェファソンの農機具雑貨店で働いている彼が、父と兄亡きあとの一家の生活を支えている。姉キャディと彼女の産んだ私生児クエンティンを憎悪しており、離れて暮らす姉が娘のために送っている金をひそかに着服している。
第四章「1928年4月8日」で小説は一人称ではなく三人称となり、視点は神(=作者)となる。叔父が不正に貯めた金を盗んで、男と逐電した姪クエンティンの行方を追うジェイソンの激しい怒りが描かれる。

はじめの三章を通じて描かれるのはきょうだいで唯一の女であるキャディに対する各人たちの心理だ。ベンジャミンは純粋に姉を慕い、クエンティンは(観念的な)近親相姦幻想を妹に抱き、ジェイソンは姉をアバズレと嫌悪している。キャディ自身の語りはなく、ほかのきょうだいたちによる語りによって彼女の肖像が描かれ、彼女の没落がコンプソン家の没落とリンクする。


フォークナーは、ジョイスやウルフと同じく「意識の流れ」の手法を用いる。これは当時のモダニズム文学が扱った小説における言語実験で、「主観的な言語表現、意識の刻々の流動、無意識の突然の表出、そうした現代人の心理と表現をめぐる主題」を追求する。語り手の独白は想起や連想によって時空を越えて断続的に繋がっていく。本書ではとくに前半の二章が読みづらく、それはなぜかというとベンジャミンは言語を満足には操れず、クエンティンはつねに回想してばかりいるため、独白はあちらこちらへ飛躍するからだ。しかし巻末には本文に対応した「場面転換表」および「主要出来事年表」がついているので、こちらを参照しながら読めば小説の奥行きを堪能できるだろう。いまさら「意識の流れ」もあるまいとは思うがこれは古典だ。
しかし、穴だらけの語りが最後にすべて、パズルのピースが埋まるように解き明かされるだろうと期待して読んだら肩透かしを食うかもしれない。物語はだいぶ想像の余地を残して終わる。

付録として、作者が本作発表後15年後に執筆した「コンプソン一族」という、この小説の登場人物たちのプロフィールおよび後日談が下巻巻末についている。翻訳文は読みやすい。



4003232348響きと怒り (上)
平石 貴樹 新納 卓也
岩波書店 2007-01

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4003232356響きと怒り (下)
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内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。この本、購入済でそろそろ読もうかなと思っているところです。「意識の流れ」ですか〜。ウルフの“灯台へ”は先月読みましたがちょっと渋すぎる印象で微妙でした。ともかく読んでみます〜
モーラ
2008/08/25 00:36

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