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zoom RSS 『リア王』 シェイクスピア

<<   作成日時 : 2008/09/20 00:00   >>

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量れないものを量ろうと試みる愚行が悲劇を招来する。

高齢を理由に退位を決めた古代ブリテンの王リアは、三人の娘たちに父への愛情を問い、答え次第で王国の領土を与えると宣する。長女のゴネリルと次女のリーガンは美辞麗句で父を満足させ領土のそれぞれ三分の一ずつを獲得するが、王がもっとも愛した末娘のコーディリアは父に寄せる情のあまりの深さゆえ沈黙でもって答えとする。この沈黙を冷淡の証と解したリアは激怒し、末娘と父子の縁を断つ。
退位後は上の二人の娘の懐で安らかに過ごそうと願ったリアだが、強欲で非情な娘たちはもはや用済みの父をないがしろにし、虐待し、ついには発狂させる。
混乱する王国内では内紛の噂が流れ、フランス軍の到来も告げられる。野心や愛欲に憑かれた男女の思惑が交錯し、不条理な運命によってリアやコーディリアをはじめ多くの人々が斃れる。

ひとの想いは量れない。目に見えぬものを数値化しようとしたそもそもの冒頭からリアの目は曇っていた。彼がコーディリアの情愛を信じられず、冷酷な上の娘たちの本性を見抜けなかったのはゆえなきことではない。
このリアの悲劇と同時進行で、グロスター伯父子のプロットが展開する。グロスター伯の庶子エドマンドは、嫡子のエドガーと父グロスターをともに落としいれ、出世しようと目論む。愚かなグロスターは易々と騙され、エドガーも追放の身となる。リアは最後にコーディリアの愛を確信し、己の不明を悔いながら死んでいくのだが、サブ・プロットのグロスター伯もまたリアとよく似た道筋をたどった末に息を引き取る。相似したふたつの親―子の欲と愛をめぐる筋ははじめは別個に展開しやがて交わる。

シェイクスピアの台本にはほぼ例外なく原作もしくは種本があるそうで、本作執筆の際に著者が参考としたのは作者不詳の『リア王と三人の娘たちの年代記劇』という劇であるという。ただしこの『年代記劇』では劇はハッピーエンドで終わる。すべての陰謀を破ったのちにリアは復位し、コーディリアは幸福に暮らす。「ハッピーエンドのリア王劇」はその他古くからの書物のなかにも見られるがその逆はない。「悲劇のリア王劇」はシェイクスピアが独自に改変を施したものとされる。グロスター伯のサブ・プロットの投入も(別の書物から拝借してはいるが)彼の改変だ。劇中では何の罪も犯していないコーディリアまでもが、強欲な姉たちと同じく無残な死を遂げねばならなかった。それによって不条理の世界で運命(または神)の操り人形として存在するほかない人間の喜劇的悲劇性が顕著になっている。

リア この世に生まれ落ちた時、わしらは泣いた。はじめてこの世の空気を嗅いで、わしらは泣いた。(略)
道化ばかりの、この、世界という、大きな舞台に放り出されて、泣いたのじゃ。


グロスター (略)いたずら小僧が、ただ戯れにセミやトンボを殺すように、神々は、わしら人間を、おもちゃになさる。


『ハムレット』、『マクベス』、『オセロウ』と並び称される「四大悲劇」のうちで、おそらくは本作こそが時代や国境の制約を越えて読む(観る)者のこころをもっとも捉えるのではないかと思っている。巻末に「シェイクスピア小伝」が付いていて、この巨大な劇作家の生涯を俯瞰できる。訳文は見事。ある程度の格調がありまた軽さがある。古典の新訳にふさわしい。

4334751016リア王 (光文社古典新訳文庫)
安西 徹雄
光文社 2006-09-07

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