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zoom RSS 『セールスマンの死』 アーサー・ミラー

<<   作成日時 : 2008/10/24 00:00   >>

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テネシー・ウィリアムズと同時期にアメリカ演劇界で活躍したミラーの代表作。
読んでいてこんなにもこころが痛くなる物語もそうそうない。

主人公のウイリー・ローマンはかつては敏腕セールスマンだったが、時代の変化や取引先の顔馴染みの引退などの理由により成績が落ちぶれ、今では見る影もない。家のローンや保険費、車の修理費など出費はかさむのに歩合だけの給料では生活もままならず、二人の息子がいるものの定職につかずのらくらしていて彼らは頼りにならない。妻はただ嘆くばかり。物質的にまた精神的に追い詰められたローマンは自ら命を絶つことになる…。

ウィリアムズの『ガラスの動物園』の登場人物たちもそうだったが、この戯曲の主人公ローマンもまた夢想的、現実逃避的傾向をもった人物だ。うだつのあがらない長男の今を見ようとはせず、彼が有為な少年(と父には思えた)だったころの色眼鏡を未だ捨てられず、現実を直視できない。それが長男にも負担になっていて彼が自分の無能力を受け入れる障害となる。結果、彼らは更なる不幸の深みに嵌る。

物語はローマンが憔悴しきって帰宅した月曜日の深夜から、彼が自殺をする翌火曜日の深夜までの二十四時間の間に展開する。この間にローマンのこころに様々な記憶がフラッシュバックし、それを演出する手法がとられている。

自らの過去の栄光にすがっているローマンの姿は痛々しい。父がそんな窮状にあっても定職につかない息子たちがもどかしい。これは半世紀以上も前のアメリカの話にとどまらず、現代日本の「今」のお話とも読めるのではないか。

ウイリー おかしいな、ええ? ハイウェイを飛ばしたり、汽車に乗ったり、バイヤーに会ったり、長い年月のあげくのはてが、生きてるよりは死んだほうがましだとはね。


よほどの資産家でないかぎり自宅の購入はローンになるだろうし、失業や貧困といった問題と完全に無縁であるといいきれるサラリーマンは殆どいないだろう。ローマンはセールスマンであるが、セールスあるいは営業に携わる人間でなくても、高度資本主義社会で暮らす人間の一人として決して他人事ではないと怖いような思いをしつつ読んだ。
それにしても悲しい物語だ。当時よりも現在のほうが、内容はより切実に読者に迫るのではないか。救いのない話ではあるがその救いのなさゆえに救われる、そういうこともあるかもしれない。


415140001Xアーサー・ミラー〈1〉セールスマンの死 (ハヤカワ演劇文庫) (ハヤカワ演劇文庫)
倉橋 健
早川書房 2006-09-20

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さて、本書もその一冊であるハヤカワ演劇文庫からカミュの『カリギュラ』が刊行されていて少し驚いた。かつて新潮文庫で出ていたが今は絶版でこうして名作が新訳で読めるようになるのは喜ばしい。「カミュ1」となっているので2もあるのだろうし、それならば新潮文庫で「カリギュラ」と併録されていた「誤解」も出てほしいところだ。これは、長らく消息不明だった男が功なり金を得て、家族を驚かせようと名を伏せて帰宅し一夜の宿を求めるが、生活に困窮していた家族は寝ている隙を見てこの男を殺してしまうという筋で、たしか実際にあった事件がモデルではなかったか(『異邦人』にもこの話題に言及している箇所があった)。これもまた救いのない話だった。

4151400184アルベール・カミュ (1) カリギュラ (ハヤカワ演劇文庫 18)
岩切 正一郎
早川書房 2008-09-25

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