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zoom RSS 『乞食王子』 吉田健一

<<   作成日時 : 2009/02/24 00:00   >>

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マーク・トウェインの小説から想を得たタイトルのエッセイ。
吉田健一の文章は、それがエッセイであれ小説であれ評論であれ、読む者を贅沢な気持にさせてくれる。

内容は多岐にわたる。
東京の魅力や食事また酒について。これらの話題は吉田健一の読者には馴染み深いだろう。ほかに政治的な発言が多くあって、むしろそちらのほうを興味深く読んだ。

吉田健一は恋愛よりも友情に価値を置いた人間のようで、また即物的な濡れ事を決して書かない人物だったが(石川淳は彼の文章を「色気がない」と評したそうだが)それだけにということになるのか、女について書いてあるのを読むと感嘆のため息が出る。
宴會に必要なのは當然、飲みものや料理で、その晩も凝つたものが出たが、何よりもなくてはならないのは美しい女、或は少なくとも、眺められる女であつて、ただ眺めてゐては失禮だから、さういふ邪魔を除くために話をするのである。食事の後も、ドイツの伯爵の娘とゐた。フランス大使の娘、或は誰か他の女の方に行くのが禮儀だつた譯で、それをしないでゐるのも一種の態度になる。二人で露臺に出ると、夜の感じが濃くて、女の髪は微かに「ヴォル・ド・ニュイ」の匂ひがした。
「夜は大好きです、」と女が言つた。そのナハトといふ言葉がまだ聞えるやうな氣がする。

「宴會」

『金沢』に出てくる、これまで愛したすべての女の面影を宿しているような女というあの叙述も素晴らしかった。

書かれている内容のどこまでが本当の話なのか、どこからが絵空事であるのか、そんなことはどうでもよい。戦争中から戦後にかけてモク拾いをやったなどと書いてあって、著者はかなりの貧乏をしていた時期があったわけだが(吉田茂の息子だったことを思うと奇怪な気がする)まさか本当にモク拾いをしてはいないだろう。「随筆で嘘を書くこともできる」と彼は述べているが、書かれていることなら本当のことと思ってしまう読者を想定しては書いていないのではないか。

吉田健一を特集した「ユリイカ」誌上の清水徹氏の発言に刺激されて、30代の10年は吉田健一を読んで過ごそうと思う管理人が今回読んだのは、著作集の3巻で『文学人生案内』を併収。今ブームらしい小林多喜二についても一章を割いて書いてある。まっとうなこと、あるいはあたりまえのことを読んで気持よくなりたいとき、吉田健一の文章ほど適したものはない。


4061963236乞食王子 (講談社文芸文庫―現代の日本のエッセイ)
吉田 健一
講談社 1995-05

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4791701534ユリイカ 2006年10月号特集=吉田健一
青土社 2006-09

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