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zoom RSS 『ジーザス・サン』 デニス・ジョンソン

<<   作成日時 : 2009/03/31 01:40   >>

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ぶっきらぼうな語りが魅力の短編集。

11編の連作短編を収録。語り手の「俺」は名前は明らかにされないが「ド阿呆(ファックヘッド)」と呼ばれている男。麻薬常用者で、職を転々としているらしいことは読んでいくとわかる。彼と彼の友人や恋人たち、彼が遭遇した出来事などの日常が小説となっていて、この日常はアメリカの下層階級の人々のそれであって悲惨な、凄絶な内容があっさりと述べられる。嵐の夜にヒッチハイクした車が事故を起こす「ヒッチハイク中の事故」や、語り手の勤務する病院に、目にナイフが刺さった状態で搬送されてきた男をめぐる「緊急」、語り手の今は亡き恋人の堕胎について回想する「ダーティ・ウェディング」など、読んでいて気の滅入るものが多い。とくに冒頭に配置された「ヒッチハイク中の事故」の悲惨さといったら悪夢のようで、これをはじめに読まされた読者は、このあといかなる短編が続くのかとおそろしいような気持になるのではないか。

小説の叙述に、薬物がどう影響を及ぼすのかは知らない。知らないが、著者ジョンソンも語り手と同じく(元)薬物中毒者であり、彼の語りは時間軸を無視する。突然に「それより少し前」といった語が挿入されて時間は前後し、読み手を惑わす。どの短編にもドラッグや暴力や貧困といった現代のアメリカが抱える問題が透けて見え、読了して愉快な気分で閉じられる本ではない。そして著者ジョンソンは日本ではほとんど知られていないだろう作家ではあるが、20世紀末に出版されたアメリカの短篇集として本書は代表的な一冊なのだそうだ。

ジョンソンはブコウスキーのようなニヒリズムとも距離をおき、ただあるがままの現在に向かって開かれている。感傷やペシミズムは一切ない。読み手を選ぶだろうが、これは強烈な個性をもった作家の宿命だろう。


さて本書は白水社による現代の海外小説を紹介する「エクス・リブリス」シリーズの第一弾になる。光文社の古典新訳文庫や河出書房新社の世界文学全集シリーズといったクラシックはよい。それと同じくらいに現在の海外の小説ももっと読みたい。新潮社のクレストシリーズとはまた違った毛色の小説が出てくると面白いと期待している。


4560090017ジーザス・サン (エクス・リブリス)
Denis Johnson 柴田 元幸
白水社 2009-03

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『 ジーザス・サン』 デニス ジョンソン (著)
《アメリカ短篇小説の最高峰》 本書の原書が刊行されたのは1992年。それ以来、多くの読者に衝撃を与え、20世紀末のアメリカ短篇集の最高峰として、誰もが名を挙げる一冊でありつづけている。 デニス・ジョンソンは、旧西ドイツ、ミュンヘン生まれ。ジミ・ヘンドリックスのギターに影響を受けて文章を書きはじめたという。デビュー以来、核戦争後の近未来や、暴力とドラッグに染まった現代アメリカ社会の裏面を精力的に描きつづけている。最新長編『煙の樹』(<エクス・リブリス>シリーズにて刊行予定) で《全米図書賞》を受賞... ...続きを見る
Anonymous-source
2009/07/11 21:46

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