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zoom RSS 『タイタンの妖女』 カート・ヴォネガット・ジュニア

<<   作成日時 : 2009/03/20 00:00   >>

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悲劇的喜劇。または喜劇的悲劇。

時空を超えて太陽系の全域に波動現象として存在する米国名門の資産家ラムファードと愛犬カザック。ラムファードは過去現在未来にわたって神にも等しい力を用いて人類の歴史をある方向へと導いてきた。投資家のマラカイ・コンスタントは全米一の富豪で、彼はラムファードの計画における最重要人物だった。ラムファードによって人類史上最大の受難者とされた彼は、地球から火星へ、火星から水星へ、水星から再び地球へ、そして地球から土星の衛星タイタンへと宇宙をさまよう羽目になる。やがて何年もの時を経てたどりついたタイタンの地では、計画の立案者であったはずのラムファードすら思いもしなかったある解答が用意されていた。その惑星で異星人によって、地球が存在する理由が明らかにされる。それは。

陽気でありながらなんともシニカルでなんともニヒリスティックな小説だ。火星と地球との戦争の場面も、水星で出会う唯一の生命体であるハーモニウムの描写にしても、人類の愚かさを諷刺する。マラカイとともに水星に不時着した男は、地球へ帰還する方法が見つかってもそうしようとはせず、現地にとどまる。なぜか。彼はこれまで人間に一度もよくしてもらったことはないし、よくしてやったこともない。そんなところへ戻るより、まったく異質の生命体ではあるが心を通わすことのできたハーモニウムたちと水星で生き、死ぬほうがよいというのだ。

この男の気持を水星につなぎとめたのは愛の問題だろう。人類の目的が明らかにされ、そのあまりのくだらなさに失望しかけたマラカイたちだったが、彼の妻(便宜上こう表記する)は彼にこう述べるだろう。
「だれにとってもいちばん不幸なことがあるとしたら」と彼女はいった。「それはだれにもなにごとにも利用されないことである」

それに続く彼女の一言こそ、この小説中の白眉だろう。
「わたしを利用してくれてありがとう」。
地球では反目し合っていたマラカイと妻が、故郷から遥か遠い土星でともに暮らすうちに打ち解けあうようになる。長い年月ののちに妻を亡くしたマラカイ老人は、人生の目的をついに悟る。
「人生の目的は、どこのだれがそれを操っているにしろ、手近にいて愛されるのを待っているだれかを愛することだ」と。
ユーモラスに書かれているが、本書はシリアスな愛の小説なのだ。

4150117004タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫SF)
和田 誠 浅倉久志
早川書房 2009-02-25

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