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zoom RSS 『女と人形』 ピエール・ルイス

<<   作成日時 : 2009/03/22 00:00   >>

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恋の虜は堕ちていく。どこまでも。

スペインの古都セヴィリア。カーニバルの終わり近いある夕べ、情事の相手を探し求めているフランス人青年アンドレは、馬車のなかに見た美しい女と逢瀬の約束をとりつける。愛の快楽を想像して浮き立つアンドレに、スペイン人の中年紳士ドン・ホセは忠告する。「あれは悪魔のような女です」。女の名はコンチータ。彼女はかつてドン・ホセの愛人だった。アンドレはドン・ホセの屋敷を訪れ、彼の口からあの妖しくも美しい女の怪物めいた素性を知らされることになる。

小説の構造が興味深い。はじめはカーニバルの喧騒渦巻くセヴィリアを歩くアンドレの行動が神の視点から述べられるが、それははじめの3章だけで、そのあとドン・ホセの語りになると、彼の一人称になりこれが14章まで続く。そして最終の15章になって再び三人称の小説となる。アンドレとコンチータの恋の挿話に挟まれるかたちになっているが、小説の大半を占めるのはドン・ホセの語りによる回想だ。そしてこの部分を読むことで読者は、なぜ彼が、小説の序盤では美しい貴婦人のように思えるコンチータを「悪魔のような女」だと述べるのか、それを知ることになる。思わせぶりな誘惑の手管、とらえたと思った瞬間にするりと身をかわす抜け目なさ、己の欲望のためには相手をとことん利用し尽くす残忍さ――ファム・ファタルの典型ともいうべきヒロインだ。この女を狂おしいまでに欲するドン・ホセの熱情も凄まじい。何度欺かれても、甘い言葉を囁かれると抗えない。そうして失態を繰り返すことになる。

恋とはかくも人を愚かにするのか。恋する女を求めるあまり狂態をさらすドン・ホセを嗤うことはできない。終盤には異常性欲というのか、サド的な性的嗜好が女のなかで萌芽する。冒頭から、ジェット・コースターのような上昇と落下を繰り返し、最後の一節では鳥肌が立つほどに愛欲の業の深さをまざまざと示す。性交を焦らしに焦らすコンチータには、ドン・ホセならずとももどかしくなるだろう。彼女の、「神様がお許しになるところまでは乱れてもかまわないけど、男の人がお望みのところまでは駄目よ!」は名言だ。


4794923120女と人形 (アフロディーテ双書)
生田 耕作
晶文社 2003-04

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