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zoom RSS 『花模様が怖い』 片岡義男 

<<   作成日時 : 2009/04/18 00:00   >>

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「謎と銃弾の短篇」集。

登場人物の内面の描写を省き、徹底して外面の描写にこだわる著者の文体は、簡潔でドライで力強い。叙情を排したハードボイルドな文体だからこそ、読む者の胸を強く打つ一編が生まれえる。ぜんぶで8編を収録しており、そのなかでも「心をこめてカボチャ畑にすわる」と「狙撃者がいる」の二編は抜きん出て素晴らしい出来だ。

「心をこめてカボチャ畑にすわる」はカリフォルニアから遠く離れたどこかのハイウェイ沿いのダイナーの一日を描く。インディアンの血を引く少年が一人で切り盛りしているこの店に、この日は多くの客が訪れた。女刑事と彼女が護送しているハンサムな囚人。モーターホームで旅をしている病気の少女の一行。チョッパー乗りのカップル。ヒッチハイクで道連れになった二人の男。顔を合わせ、すぐに別れる旅の一期一会がアメリカの広大な荒野を背景にすると切ない。ひとつの場所に居続ける少年と、移動し続ける少女との、べたつくところのない爽やかな会話が心地よい。不思議な崇高さを湛えた短編で、客の男と少年の対話を読んでいて涙が出た。小説の感動で涙を流すのは久しぶりだ。実に自然に展開するため、読んでいて翻訳小説の気がしてくる。

そして「狙撃者がいる」。
これは都内に住む29歳の美しい女が主人公だ。彼女は美しさを別にすればごく普通の女だ。しかし彼女には歪んだ願望があって、それに憑かれて名もなき人々を次々に、完璧なやり方で射殺してゆく。彼女と標的のほかには誰一人介入しない(目撃者が存在しない)時空の死角というべき「時間の裂け目」、日常が非日常となりえる時空、射殺はそこに飛び込むことだというアンモラルな思想が彼女をつき動かし、通り魔的な狙撃は徐々にエスカレートしていく。現場の状況の克明な叙述がスリルを誘い、暴発する暴力の発作が背筋を冷たくする。都市が抱える死角を衝いて、彼女は人を殺してゆく。時間の裂け目はごく短くて構わない。脇に抱えたブリーフケースから拳銃を取り出し、狙いを定め、標的の胸に二発、頭に一発の弾丸を撃ち込むのに10秒とかからないのだから。狙撃することが目的で殺す相手には一切頓着しないという彼女の人格は「理由なき殺人」の現代においてリアリティがある。凄い小説を読んだあとには興奮して、これを鎮めるために煙草を吸う癖があるのだが、「狙撃者がいる」はまさに煙草を吸いたくさせる一編だった(最近では夢野久作の「死後の恋」もそうだった)。


ほかに「夜行ならブルースが聞こえる」「白い町」「夕陽に赤い帆」「約束」「彼女のリアリズムが輝く」「花模様にひそむ」を収録。「彼女のリアリズムが輝く」以外にはどれも銃が小道具として登場する。ある外国でなら容易に手に入る凶器ひとつで、われわれの日常はたやすく引き裂かれる。日常は、脆い。


4150309531花模様が怖い―謎と銃弾の短篇 (ハヤカワ文庫JA―片岡義男コレクション)
池上 冬樹
早川書房 2009-04-05

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