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zoom RSS 『ヒルズ黙示録』 大鹿靖明

<<   作成日時 : 2009/05/31 00:00   >>

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続編の『最終章』と併せて、かつて日本中を騒がせた「ヒルズ族」による一連の事件の舞台裏を暴く。

ライブドアによるニッポン放送の敵対的買収の事件と、それに続く社長堀江貴文氏の参院選立候補、そして逮捕、起訴。堀江氏は一時期は時代の寵児などともてはやされたりもした。一企業の社長というよりはタレント的存在としてテレビでたびたびその姿を見かけた。その「時の人」が犯罪者として裁かれることになると当時誰が予見しただろう。

世間一般はライブドアをIT企業と認知していたようだが、実際にはIT部門は赤字を抱えており、企業の業績は金融・投資部門に支えられていた。ライブドアの実態は、金融・投資会社だったのだ。東大を中退後に堀江氏が起業したオン・ザ・エッヂ(ライブドアの前身)はインターネットサイトの制作会社で、技術者としての堀江氏は生真面目で、同業他者よりも安価で、納期にはきちんと間に合わせるという堅実な経営をしていた。しかし次第にインターネットが注目を集めるようになり、競争相手が増えてくると利潤も減ってくる。堀江氏自身が直面した、技術者としての壁もあったようだ(何の世界にも上には上がいる)。無料プロバイダのライブドアを買収して社名を変更したのち、次第に業務内容はインターネットサイトの制作から、投資へとシフトしていくだろう。

世間の注目を集め、物議を醸したニッポン放送への敵対的買収の件だが、この企業はフジサンケイグループの持株会社的役割を果たしていた。相対的に小さな会社が、グループの中核企業のフジテレビをはじめ、ポニーキャニオンや扶桑社、横浜ベイスターズなどを傘下に従えるという「資本のねじれ」が生じていた。ここを制すればフジサンケイグループが乗っ取れたのだ。この点に目をつけての買収劇だったのだが、実際には堀江氏の発案ではなく、村上世彰氏の提案だった。堀江氏は彼にそそのかされた「踊り子」に過ぎなかったのが本書で明らかにされる。さらにこの背後には、フジテレビの当時の経営陣と対立していたオーナー一族の怨念もあった。

ライブドアが急速に資本を増すのに成功したのにはいくつかの理由があった。相手先企業の資産を担保に金融機関から資金を調達して、その資金で相手先企業を買収するレバレジッド・バイアウト(LBO)などの手法が活用できたこともそのひとつだが、やはり「自社株食い」が大きかっただろう。相手先企業と株式交換する際に、ペーパーカンパニーである投資事業組合にプールして、しかるべきときに市場で売る。株価が上がり続ける状況にあったとき、この行為は禁断の果実のように見えたはずだ。「ガキ帝国」とは著者の言葉だが、ライブドアは遵法意識の低い企業だった。それが既成のルールの様々な問題点を再考させるきっかけになるのだが。

副題に「検証・ライブドア」とあるが、楽天によるTBS株取得、村上ファンドによる阪神電鉄株取得の事件についても多く述べられている。こういった事件の背後には米国流の規制緩和の影響がある。それを主導してきたのは経団連であって、いわば経団連がライブドアを生んだともいえるのだ。


しかし本書を読んでいて何よりも衝撃を受けたのは、マネーに狂奔する企業の狂騒よりも、あまりに旧態依然とした検察の実態だった。検察はあらかじめ事件の「スジ」を読み、それに沿って調書を揃えていく。検察は堀江主犯のシナリオを完成させるために、ライブドアのナンバー2だった宮内亮治氏らと司法取引をしていたと推測される。村上ファンドのある幹部は、「お前たちがやられたのは退職する検事総長の花道のためだ」という特捜検事の言葉に絶句している。裁判員制度が導入され、司法制度改革がうたわれているのに、検察がこの現状というのはあまりに問題点が多すぎるだろう。
選挙違反や贈収賄で脛に傷を持つ政治家は、触らぬ神にたたりなし、と手をつけない。談合や粉飾が横行している経済界も何も言わない。ネタもらいに汲々とするジャーナリズムはめったに批判しない。それどころか、戦時の従軍記者のように、過剰に戦果を書き立てる。批判がない組織は、自制が利かない。霞が関のアンタッチャブル、東京地検特捜部はまるで現代の「関東軍」のようだった。いったん暴走すると誰も止められず、しかも誰も責任をとらなかった。

事が公になると「俺は知らない」「関係ない」を連呼する堀江氏に同情する気など微塵もないが、この逮捕劇および裁判が「粉飾」であるという本書の指摘には頷かざるをえないだろう。

「事件は時代を語る」。
著者はこれら事件の背景に、世代間の抗争を見る。「ジジイ」たちが「小僧」どもを潰すのに成功した――。世代間に厳然としてある格差問題についてはこれからますます述べられていくだろう。読み終えて久しぶりに暗澹たる気分になった。


4022615931ヒルズ黙示録 検証・ライブドア (朝日文庫)
大鹿 靖明
朝日新聞出版 2008-09-05

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4022731133ヒルズ黙示録・最終章 (朝日新書)
大鹿 靖明
朝日新聞社 2006-11

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