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zoom RSS 『渚にて』 ネヴィル・シュート

<<   作成日時 : 2009/06/11 00:00   >>

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放射能によって死滅していく世界の終末。

第三次世界大戦が勃発し、世界各地で4700発以上の核爆弾が炸裂した。北半球の国々は放射能に汚染され、生命はすべて息絶え、国家は事実上滅亡した。南半球のオーストラリアはいまのところ無事ではあったが、放射能は南下してきており、数ヶ月ののちには汚染され、人類は滅亡する。この地球最後の日々を生きる人々の生活を、穏やかに、ときにユーモアをまじえながら物語る。

すでに北半球は滅亡しているはずなのに、気がかりな問題がひとつあった。オーストラリア軍本部に、ときどき、シアトルから意味不明な内容のモールス信号が届くのだ。生存者がいるのだろうか。一縷の望みをかけて、いまはオーストラリア軍の管轄化にあるアメリカの潜水艦スコーピオン号は危険な調査の旅に出発する。30日にも及ぶ航海の果てに彼らがシアトルで目撃することになるものは。

世界にも、人間をはじめとするすべての生命にも、もはやわずかな時間しか残されてはいない。パニックが起こり、人心は荒廃し、暴動や略奪、殺人や強姦といった醜い犯罪が起きたとしても不思議ではない。いや、むしろそれが自然だろう。しかし著者はそのような場面を殆ど描かない。人々は最後の日々を、放射能による苦しい死(嘔吐、下痢、高熱ののちに衰弱して死んでいく)の影に脅えつつも、人としての尊厳を保って暮らしている。もはや時間がないから、仕事もそっちのけで趣味のカーレースに夢中になる者もいれば、もはや数ヶ月しか先はないというのに庭作りに凝って花や木を植えたり、資格の学校に通う者もいる。おかしいとわかっていながらも、人は生きている限りは希望を捨てることはできないのだ。もしかしたら放射能を食い止めることができるかもしれない、そんなありえない幸運を期待する心情もあるのだろう。自分たちだけは助かるのではないのか、死なずにすむのではないか、と。

けれども最後の時は訪れるだろう。それも予想よりも早くに。そしてみなが死んでいく。
核の恐怖を伝えるとともに、人間の尊厳を静かにうたい上げて読む者の胸を打つ。スコーピオン号の艦長と、彼を慕う女のプラトニックな恋が、かなしくも気持のよい余韻を残すだろう。

4488616038渚にて【新版】 人類最後の日 (創元SF文庫)
佐藤 龍雄
東京創元社 2009-04-28

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 貴記事にて、新版が出ていることを知りました。ありがたい。懐かしい書名です。昔、テレビで映画化されたものを見て文庫本を買い、長らく持っていたのですがいつの間にかなくしてしまいました。映画では、フレッド・アステアとアンソニー・パーキンスが強く印象に残っています。機会を見て、私も再読したいと思います。
k.s.s.a
URL
2009/06/29 08:33

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