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zoom RSS 『ケルベロス第五の首』 ジーン・ウルフ

<<   作成日時 : 2009/06/13 00:00   >>

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何が真実で何が虚偽なのか。考えれば考えるほどにわからなくなる。

地球より彼方にある双子の殖民惑星、サント・クロアとサント・アンヌ。サント・アンヌにもともと住んでいた原住民は、訪れた地球人により絶滅させられたと伝えられている。しかしこの歴史には異説があった。原住民たちは何にでも姿を変えられる能力をもっていて、実際には彼らは逆に地球人たちを全滅させたのち彼らに化けてなりすまし、そのうちに自らが地球人ではなかったことを忘れて現在も暮らしているのだと。
サント・アンヌの歴史の真実/虚偽を探求する物語は、同時に、登場人物たちが自らのアイデンティティを探求する物語と二重写しになる。

小説は三つの中編から成っている。
「ケルベロス第五の首」はサント・クロアの富裕な家庭に生まれた少年の物語。
「『ある物語』 ジョン・V・マーシュ作」は人類学者マーシュ博士が採集したサント・アンヌに伝わる民話の再現。
「V・R・T」は政治犯として逮捕されたマーシュ博士が取り調べで受けた尋問のテープや、調査で採集した証言や、日記のコラージュ。
これら三つの中編が補完し合って、ひとつの物語が完成する。もっともその完成された物語は、結局は謎を明確にはし得ない、宙ぶらりんなものにとどまるのだが。ミステリ的な謎解きの要素があり、かつ解答が用意されていないために読者を選ぶかもしれない小説ではある。逆に、すべてが明確にされないという本作のもつ余白の要素を、想像力を遊ばせる自由と考えられる読者にとってはたまらない小説となるだろう。

サント・アンヌの原住民の「模倣」の能力がある。彼らが仮に異説のとおりに地球人たちを返り討ちにしてから殺した種族に化けて暮らしていても、完璧になりすまし、もはや自らがサント・アンヌの原住民であったことなど忘れてしまっていたとしたら、それはもう模倣というレベルではなくなっているのではないだろうか。真実/虚偽の問題は本作の主題で、同時に登場人物たちも自らと向き合い、自分にとっての真実/虚偽の問題に直面することになる。クローン技術や、コンピュータによってコピーされた人格といった道具立てはアイデンティティを考察するための装置として使われる。

個人の不確かさは、歴史の不確かさと重なり合う。そしてそれは物語の不確かさとなって読む者を幻惑する。語りの魅力といい、技巧を凝らした構成といい、謎が謎を誘う展開といい、真相を明確には述べない物語の余白といい、すぐれた小説家は魔術師のように読む者を翻弄し魅了するということを実感させてくれる。管理人は、最後の「V・R・T」で少年は途中からマーシュ博士になりすましているのではないかと疑っているのだが、どうだろうか。


4336045666ケルベロス第五の首 (未来の文学)
柳下 毅一郎
国書刊行会 2004-07-25

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