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zoom RSS 『エリック・ホッファー自伝』 エリック・ホッファー

<<   作成日時 : 2009/08/18 00:00   >>

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「沖仲仕の哲学者」の自伝。

ホッファーの経歴はかなり異色だ。ブロンクスにドイツ系移民の子として生まれ、幼くして母親を失い、五歳のころにはドイツ語と英語が読めたが、七歳のときに失明したのち十五歳で突然視力が回復する(そんなことがあるのか)。正規の学校教育を一切受けられず、十八歳で天涯孤独の身となったのちは、アメリカ各地を転々として様々な職業(主として肉体労働)に就きながら、図書館にひたすら通って独学を続けた。1941年から港湾労働者となり、67年まで働く。51年に処女作『大衆運動』を発表すると、バートランド・ラッセルやアイゼンハワー大統領などから絶賛される。つねに社会の底辺に身を置き、肉体労働のあとの余暇をひたすら思索と執筆に奉げた。彼の愛読者は日本にも多いという。

主著であり、ホッファー自身もっとも気に入っているという『大衆運動』はおろか、彼の社会観も思想も知らず、というか著書を読んだことがない人間が読んでも、この自伝は単純に読み物として面白く読める。やたらとあっさり書かれていて各章は短い。けれども、実にコンパクトにそのときそのときのホッファーと、彼が出会った人々、訪れた土地の風土などが見られて飽きない。広大な国土を有するアメリカという国ならではの、移動すること、放浪することの魅力も味わえる。哲学者と聞き、また扉の厳しい著者のポートレイトを見ただけではよほど堅物なのだろうと思いきや、ほとんど全編にわたってユーモアが溢れているのがまたいい。管理人のようなホッファーの著者を読んだことのない人間でも、彼の哲学や洞察はさり気なく書かれているだけなのでとくべつ不都合はない。数奇な星のもとに生まれ、自ら数奇な人生を選ぶことにした一人のアメリカ人の半生を追って、ときに勇気をもらいながら最後まで読み進む。続けて収録されたインタビュー記事はホッファーの思想を知るうえでよいとっかかりになりそうだ。労働と個人という問題は、今も新しい。

異色の経歴を生きた人だからエピソードには事欠かない。そのなかでもっとも印象に残ったのは、詳細な植物事典を手に入れ、何度も何度も読み返したホッファーはあるとき、困った状況になるとその本を開こうとする自分がいるのに気づく。答えの書いてある本に頼ろうとする自分が許せなくて、彼は走っている列車から大切にしてきた事典を投げ捨てる。この真摯な姿勢には頭が下がる。ホッファーという哲学者を端的に示したよいエピソードだと思う。

面倒さえ厭わなければできないことはない、という沖仲仕の信念には勇気をもらえる。もっともっと生きたい、読者をそういう気持にさせてくれる。


4878934735エリック・ホッファー自伝―構想された真実
Eric Hoffer
作品社 2002-06

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考える人
 私は仕事で雑用をしたり、受付で番をしながら、物を考えている。毎日毎日忙しく仕事をしている人が、自分を振り返る間もなく仕事をしていることを考えると、考えるという点では恵まれているなあと思う。 epiさんのブログで知ったエリック・ホッファーという哲学者は、18歳で天涯孤独の身となったのちは、アメリカ各地を転々として様々な職業(主として肉体労働)に就きながら、図書館にひたすら通って独学を続けたそうで、それだったら私だって多少はそれに似たことはできるかもしれないなと思った。 http://e... ...続きを見る
magnoria
2009/08/23 19:09

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