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zoom RSS 『素粒子』 ミシェル・ウエルベック

<<   作成日時 : 2009/09/11 00:00   >>

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再読してあらためて思う。
こんなにも滑稽で、こんなにも哀切で、こんなにも絶望的な物語はそうそうないと。

20世紀末のパリ。
父親を異にする二人の兄弟がいる。兄は、文学青年崩れの高校教師ブリュノ。弟は、ノーベル賞クラスの分子生物学者ミシェル。兄は性欲の果てにある愛を求めて得られずあがき、弟は他人に愛情を抱けずに研究所と自宅とのあいだの往復のうちに日を送る。どちらもが孤独で、どちらもが生きることに空虚を感じている。世紀末の西欧で生きるこの二人の半生を、何者かが醒めた視点で物語る(彼の正体は最後に明らかにされるだろう)。

ブリュノが女漁り(その大半は惨めな結果に終わるのだが)をやめられないのは、彼が性欲の向こうに女の愛を欲しているからだ。40年間、彼は女の愛をずっと欲してきた。少年のころの手痛い初恋に始まり、幾度ものパーティーやらキャンプやら。一度結婚もした。子どもも生まれた。が、やがて破綻した。妻にも子どもにも、愛情を覚えはしなかった。そんな彼がようやく理想的な女と出会う。しかしその恋は彼女の死によって結末を迎えることになるだろう。そしてブリュノの精神は崩壊する。

ミシェルは愛を感じることなく生きている。かつて少年だったころ、隣家にアナベルという名の美少女が住んでいて、彼と彼女は理想的なカップルだった。しかしある出来事がきっかけで二人の関係は曖昧なまま終わってしまう。二人はそれから20年以上会わずに過ごすが、中年となったある日、故郷の町で、二人は偶然再会する。失敗に終わったかつての関係をもう一度やり直そうとするかのように、二人は再び恋仲になる。互いに穏やかな愛情でいたわりあう日々、しかしそれも長くは続かない。アナベルは病気によってミシェルの子を産むという人生最後の希望を奪われ、失望して自殺する。「愛する人たちに囲まれて、死んでいきたいと思います」。彼女の遺書にはそう書かれていた。

ブリュノもミシェルも、どちらも母の愛を知らずに育つ。この愛の欠如が、成長後の二人の感情生活に暗い影を落としている。この母親が象徴する、個人の自由を至上とするヒッピー世代がその後の世代に及ぼした悪しき影響について本書はたびたび指摘する。自由の主張によって個人の砦たる家族は破壊され、寄る辺を失った人々は不完全な世界のなかで孤独を深めていく。愛情を求めて得られず、愛情を感じるだけの力ももはやない。人類はこれから先、どこへ向かえばよいのか。

物語は終盤にいたってSF的な展開を見せる。新たなる人類の創生と、旧人類の衰退――。本編最後の一節は衝撃的だ。ここまで悲惨な愛の物語を読んできた読者は暗澹たる著者のヴィジョンに陰鬱になりながらも、最後にはカタルシスを得られるのではないだろうか。ウエルベックの邦訳作品は4作すべて読んでいるが、この『素粒子』がもっともすぐれているように思える。どうしてこんなにも滑稽で、こんなにも哀切で、こんなにも絶望的で、こんなにも美しいのだろう。

再読してあらすじがいまどきのケータイ小説っぽいと気づいた。
4480421777素粒子 (ちくま文庫)
Michel Houellebecq
筑摩書房 2006-01

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映画は小説からSF要素を排除し、人間ドラマに焦点を絞ったもの。小説と比べると物足りない。
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オスカー・レーラー
ジェネオン エンタテインメント 2007-11-21

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