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zoom RSS 『国家の罠』 佐藤優

<<   作成日時 : 2009/10/04 00:00   >>

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2002年に世間の注目を集めた「鈴木宗男事件」の当事者の一人である元外交官によるドキュメント。

著者は外務省の特殊情報分析チームのリーダーとして勤務していたが、鈴木宗男氏を標的とした「時代のけじめ」のための国策捜査が強行され、逮捕される。容疑は背任、および偽計業務妨害。日本の国益を優先し、骨身を惜しまず働いてきた結果に逮捕されるという理不尽な目に遭いながら、著者は被害者意識をもつでも自暴自棄になるでもなく、客観的かつ冷静に自分や周囲の状況を分析する。国策捜査は時代の転換期に検察が作り上げる象徴としての事件だ。ではなぜ、2002年当時、鈴木宗男氏が標的とされたのか。著者は500日以上に及ぶ拘留生活のなかでその問いの答えを探る。そして内政上と外交上のふたつの転換点に鈴木宗男氏がいたからではないか、と推論する。

小泉政権の誕生によって日本の内政は従来の政府主導モデルから、官から民への権限委譲、規制緩和等、市場競争を優先させる新自由主義モデルへと転換する。これは地域の声を汲み上げ、それを政治に反映させる鈴木氏の政治姿勢とは乖離している。
外交上では排外主義的なナショナリズムの高揚があり、北方領土問題に積極的に関わってきた鈴木氏の姿勢がバッシングの対象となる。国策捜査の適用基準は検察ではなく、一般国民にある。すなわちワイドショー的、週刊誌的な論調によって事件は形づくられていく。日本の国益という最優先しなくてはならない問題よりも、ゴシップ的におもしろおかしく報道されるものに一般国民はとびつく。その結果としての鈴木氏の逮捕劇だった。当時は連日、鈴木氏と田中眞紀子氏、田中氏と外務省との対立、確執が報道されていた。

本書から、テレビでは報道されなかった「鈴木宗男事件」の舞台裏を知ることができる。著者によれば鈴木氏は非常に有能な政治家であり、著者も含め国策捜査の対象となったのは(運が)悪かった、の一点に尽きるという。国家の標的とされてしまえば個人に勝ち目などない。同じように世間の耳目を集めた「ヒルズ事件」もまた国策捜査だったとされている。

500日以上に及ぶ拘留生活を、著者は読書と思索に費やす。学生のころから念願だった語学の習得と、神学および哲学の勉強。実際には自身は外交官ではなく研究のほうが性に合っているのではないかと述べているが、たしかに独房で精神に変調をきたさずにいられるのは精神力や体力もさることながら、適性もあるのだろう。自ら保釈を拒んで独房での不自由な、しかし静かな生活を選択する。

著者の文章は明晰で、また他者へのいたわりがある。敵である検察官とのやりとりは時に緊迫するが、有能な職業人として尊敬の念も抱いており、いつしか二人のあいだには友情のようなものが見られるようになる。しかし敵である以上、心を許せはしない。まるでハードボイルド小説の登場人物のようだ。また、看守や囚人たちに対する、あたたかな視線も見られる。情報のプロフェッショナルは自分の目で見たものを重視する。著者自身による著者はあまりにも高潔なヒーロー過ぎる気がするのだが……。

しかし事件の真相は歴史が明らかにするだろう。


4101331715国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)
新潮社 2007-10

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国策捜査つながりで。
4022615931ヒルズ黙示録 検証・ライブドア (朝日文庫)
朝日新聞出版 2008-09-05

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