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zoom RSS 『帝王の殻』 神林長平

<<   作成日時 : 2009/11/13 00:00   >>

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『あなたの魂に安らぎあれ』の続編。ただし時代はさかのぼる。

火星の都市、秋沙(あいさ)が舞台。この都市の人々は、個人の副脳ともいえるパーソナル人口脳のPABを所有していて、日々これと会話することによって自己の安定を保っている。このPABを開発している火星最大の企業、秋沙能研の所長が死亡したところから小説は始まる。秋沙能研は火星を統治しており、亡くなった所長はその権力から「帝王」と呼ばれていた。

後継者となったのはその息子。しかしボヘミアン気質のある息子に対して、生前の父親はまったく期待しておらず、次代の所長はまだ子どもの孫にすると言い残していた。息子はあくまで孫の代理として、一時的にその座に収まるにすぎないと。しかし孫は成長過程に問題があり、一切の感情をもたず、言葉も話さない。この少年に、秋沙の全PAB情報を一括管理するアイサック・システムが乗り移り、火星は混乱を来たすことになる。混乱の収拾に向かうのは少年の父親と、前作の登場人物たちだ。前作の背景についても言及される。

本作は自己とは何かをめぐる物語だ。個人がいてPABがいる。PABは所有者の分身であり、等しい価値をもつ。PABの話すことはその所有者の話すことと同義として扱われる。このような機械があるのなら、生身の肉体をもつ個人とはいったい何なのか。PABはまた所有者の対話相手となることで、彼や彼女を精神的に慰安する力ももつ。しかしそれだけ人格に密接に結びついた機械だけに、管理者側が悪意をもった場合には個人のパーソナル・データは覗き見され、情報操作によって支配されてしまう危険性ももっている。それを嫌がり、PABから距離をとる市民たちも少なからずいる。

本作はまた父と子の関係についての物語でもある。亡くなった所長と、彼に反発し続けた息子の複雑な心理。人格をコンピュータ・システムに乗っ取られてしまった幼い息子を助けるために奔走する父親。このふたつの主題が無理なく展開されている。


4150305242帝王の殻 (ハヤカワ文庫JA)
早川書房 1995-09

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