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zoom RSS 『風のかたみ』 福永武彦

<<   作成日時 : 2009/11/15 00:00   >>

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今昔物語に想を得て書かれた長編。

平安時代の京都が舞台。信濃国の武士の大伴次郎は自らの生きる道を模索して上洛する。京都には、彼の従妹にあたる美しい萩姫がいた。まだ見ぬ美しい人への憧れを抱いていた彼は、実際に姫の素顔を見て恋に落ちる。しかし姫にはべつの想い人がいた。姫の家とは政治的に対立する左大臣家の安麻呂という美男子がそうだった。安麻呂のほうでも一度だけ出会った萩姫のことを忘れられずにいた。しかし身分のある者同士であり、政治的に対立する立場にある二人が結ばれることはかなわない。次郎は己の秘めた想いをとうとう姫に打ち明けるが、彼女は彼に靡かない。一方で、次郎を密かに想う美しい町人の娘がいる。しかし綾なす恋はいずれも実らず、小説は哀しい結末を迎える。

福永が得意とする三角関係の恋愛が物語の主軸となる。孤独であるがゆえに人を求め、求めて得られぬがゆえに孤独に陥る、この青臭い自家撞着。愛と孤独の作家と呼ばれる福永の真骨頂だろう。恋される者と恋する者は巴模様を描き、ついにどれも報われない。

福永武彦は小説の方法に対して意識的な作家だった。長編は構造的に複雑に入り組んでいるものが多い。『風土』しかり、『忘却の河』しかり、『海市』しかり、『死の島』しかり。時間を前後させたり、語り手の内的独白を用いたり、一筋縄ではいかない書きかたをしたがる福永だが、本作は純粋に起承転結に則った読み物となっている。しかも、ストーリーテラーとしての福永の才能が遺憾なく発揮されており、読み始めると止まらない。探偵小説を好んだ福永らしく、謎とき要素もあり、読者を飽きさせない。平安時代が舞台ということで読みはじめるまでは少し構えていたが、読み始めてしまえば時代背景はほとんど気にならず、そこで展開させる福永らしい愛と孤独の物語を堪能した。いや福永は甘い。どうしようもなく甘い作家だ。だがそれがいい。世間的な評価などどうでもよい。やはり自分はこの作家が好きなのだと自覚した。

本作のなかでは幾人もの人が、「命がけでする恋」について熱く語る。青い。青すぎる。その先にある未来について思いを馳せることはできない点も含めて。恋とは相手のために死ねると思うこと。愛とは相手のために生きようと思うこと。福永の小説に、管理人はそれを教えてもらったように思っている。

4101115109風のかたみ (新潮文庫 ふ 4-10)
新潮社 1979-09

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