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zoom RSS 『青い野を歩く』 クレア・キーガン

<<   作成日時 : 2009/12/25 00:00   >>

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冬の午前の、透明で柔らかな陽射しを連想させる短編集。

著者はアイルランドの農家の出身。そのためか、農業従事者およびその家族を扱う作品が多い。訳者によると著者は近年評価が高まっている作家とのことだが、「都会ではとても暮らせない」と海辺の片田舎に犬と馬とともに暮らしているという。犬はともかく馬と一緒の暮らしというのがうまく想像できない。世界は広いということを知りたくて海外の小説を読み続けてきたけれども、そこはあまりに広すぎて、乏しい知識と情報では補いきれない物語が一冊の本のなかにある。作中の地名など聞いたこともない。アイルランドの農家の人たちがどんな生活を日々送っているのかまったく知らない。それでも、人間のことならばある程度は理解できるし、読むのに困難も覚えない。

表題作がよい。ある女の結婚式。式をとりしきる神父はかつてこの花嫁と関係があった。が、彼は職をなげうって彼女を選ぶ勇気が出なかった。式の終わり近くに、花嫁がしていたネックレスの糸がほどけて真珠が床にちらばる。神父が真珠を拾うと、彼女の手と触れる。その手は温かい。すぐ目の前の彼女は涙をこらえていて、瞬きしたら一粒こぼれてしまいそうだ。けれどもそうするのはプライドが許さない。彼女は涙を見せず、神父は失われた想いを抱えて青に染まった夜の野を歩いていく。

「森番の娘」もよい。冷え切った中年夫婦には3人の子どもがいる。わんぱくな長男、知的障害のある次男、そして母親の不義の子である長女。もはや夫婦関係に何の希望も抱けない母親の荒んだ心情が背筋を冷たくする。調理したあとのフライパンをざっと洗うだけで、家族が病気にでもなんでもなればいいと自棄気味に思う。小説の筋は、父親が拾ってきた猟犬と長女の関わりが主となるのだが、それよりも金銭的に貧しく、二人揃って愛情よりも金のことばかり考えている中年夫婦の心理がやけに印象に残る。この設定で長編が書けるのではないだろうか。


ほかに「別れの贈りもの」「長く苦しい死」「褐色の馬」「波打ち際で」「降伏」「クイックン・ツリーの夜」を収録。ユーモアと悲哀が同居した、幻想的な要素の濃い「クイックン・ツリーの夜」も読みごたえがある。裏表紙の著者紹介を見ると短編集を二冊刊行しているようだが、できれば長編を読んでみたいと思わせる。


4560090068青い野を歩く (エクス・リブリス)
Claire Keegan
白水社 2009-12

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