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zoom RSS 『本は読めないものだから心配するな』 管啓次郎

<<   作成日時 : 2010/01/12 00:00   >>

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書物や映画や旅をめぐるエッセイ集。

巻末の初出一覧によると、さまざまな雑誌に発表された文章が収録されている。これらの文章にはどれもタイトルはつけられておらず、目次もない。ちょっと珍しい構成だ。どうしてこういう構成の本になったのかは、冒頭に収録されている、本書のタイトルにもなっている一文を読むと理解できる。

本は読めないものだから心配するな、そう著者はいう。ここで著者は、一冊の本を読んだとしてもそのなかのすべてを丸暗記できるわけでもなし、また時の経過とともに忘却してしまう人間の性について述べる。渡辺一夫ほどの人物であっても、むかし読んだ本を気づかず再読して、かつて読んだことがあるのに読んでいないのと同じ結果になっているではないかと嘆息していたのだ。読書が趣味だと公言できる人間にとっての最大の悩みは、一生のうちに読めない本があまりに多いということになるのではないか。生きている時間には限りがあり、書物の数が事実上無限であるのなら、読書の真髄は何を読むかではなくて何を読まないかにかかっている、そういうかなしい結論を導きだす人もときにいる。けれども、読むと一口にいってもそれはいかなる営みを指すのだろう。ただ漫然と、最初の1頁めから文字を追って最後の一文にいたる、そしてそれきり二度と思い返すこともない、そんな時間もたしかに読書と呼べるのだろうけれども、なにか寂しい。管理人には、そんな無味乾燥な読書はどうにも耐えられない。縁あって自分が有限の時間のなかで出会えた一冊とは、その場かぎりでない、一生ものの付き合いをしたい、そう願ってしまう。

著者は表題のエッセイで、本に冊という単位は存在しない、と述べる。本は別の本と結びつき、どこまでも広がっていく。そしてそれを結ぶのが読者の役割だと述べる。
本に「冊」という単位はない。これを読書の原則の第一条とする。本は物質的に完結したふりをしているが、だまされるな。ぼくらが読みうるものはテクストだけであり、テクストとは一定の流れであり、流れからは泡が現れては消え、さまざまな夾雑物が沈んでゆく。本を読んで忘れるのはあたりまえなのだ。本とはいわばテクストの流れがぶつかる岩や石か砂か樹の枝や落ち葉や草の岸辺だ。流れは方向を変え、かすかに新たな成分を得る。問題なのはそのような複数のテクスチャアルな流れの合成であるきみ自身の生が、どんな反響を発し、どこにむかうかということにつきる。読むことと書くことと生きることはひとつ。それが読書の実用論だ。


同じ一冊(著者に背いて冊という単位を便宜上用いる)の本であったとしても、それが各読者にとってどのような意味をもっているのか、どのような反響があったのか、そのバリエーションは読者の数だけある。事実上の無限の反響がある。同じ本を読んでもそこに何を読み、何を得、何に共鳴し、何に結んでいくのか。テクストの流れにたゆたうわれら読者の一人ひとりが川となり、海となる。

本と本を結ぶという試みには興味深いものがある。丸の内の丸善の松丸本舗の試みは、だから面白いと思う。管理人は訪れたことはまだないのだけれども、ここでは松岡正剛氏がさまざまな書物を氏なりの関連性において並べているという。本の形態やジャンルによる区分けは一切なし。本棚の並べかたとしてはこれが理想ではないだろうか。

本は読めない。そういってもらえると気が楽になる。そして、もっともっと本を読みたくなる。管理人は主として小説読みだが、よい小説を読んだあとのあの充実感はなんと幸福に満ちていることか。よい本を読めば読むほどに、もっと本が読みたくなるのは不思議だ。

読書といえば、ブログ「北烏山だより」の「批評の前にちゃんと鑑賞をやる」という記事に感動的な一節があったので引用させていただきます。あるかたからの年賀状に書かれていたそうです。
「考えてみると活字が好きでない人はあの本屋の棚を宝庫と感じることが無いママに、ホントに生きていけるのでしょうか。ずっと。」
すてきな一文だと思います。こころから賛意を表したい。

4903500187本は読めないものだから心配するな
左右社 2009-10-20

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