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zoom RSS 『ゼーノの苦悶』 ズベーボ

<<   作成日時 : 2010/01/23 00:00   >>

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集英社『世界文学全集』の32巻に収録されている。

著者のズベーボは当時オーストリア帝国に属していたトリエステの生まれ。当時トリエステは、文化的にはウィーンやミュンヘンを中心とする中央ヨーロッパの伝統と雰囲気につながりながら、本国イタリアへの復帰を希望していた状況にあり、こういった複雑な背景のもとでズベーボは独特の内省的な文学を創造することになる。彼の小説は本国での評価が遅れたが、それにはトリエステ方言の混じったイタリア語による文章が破格で読みづらいことも影響しているとのこと。翻訳でしか読めない管理人には関係ない話で、本書の翻訳は読みやすいものとなっている。

小説の語り手ゼーノは五十代の実業家で、彼は精神科医にかかっており、その治療のための手記の形式で小説は書かれている。ぜんぶで8章から成っており、自身の少年時代に遡って、そこからこれまでの自分の人生を振り返る。煙草に夢中になって病気で倒れた少年時代、父親の死、愛していない女との結婚、愛人との関係、義弟とともにのめりこんだ事業の失敗、そして第一次世界大戦の勃発――これらの出来事が緻密な心理描写を用いて書かれる。

時系列に並んでいながら、各章を短編小説のように読むのも可能という不思議な構成になっている。内省的であるがゆえに自身の意識に自縄自縛になり、望む結果を得られず道化となる――この主人公の滑稽さというか悲惨さというかがよくうかがえるのは結婚問題を扱う5章で、ゼーノはある実業家と親しくなり彼の家の三人の娘たちのうち、もっとも美しい長女に狙いを定め彼女を篭絡しようとするが、彼女はなびかない。さんざんこの女に振り回されたあげく想いは実らず、彼はもっとも醜い次女と結婚することになる。長女とのつながりを失いたくはないからという理由でなされた結婚だったが、次女はよくできた女で、ゼーノの気持が自分にないのを承知のうえでそれでも彼を愛し、支える。望んだ結婚ではなかったものの、ゼーノもまた長年連れ沿ううちに情が移り、彼女を愛するようになる(のちに若くて貧しい少女を愛人にするが)。このあたりがこの小説のもっとも面白いところだろう。そのあとの事業の展開と失敗は、やや長くて退屈なもの。しかし、友情を感じて事業に協力していた義弟を、彼の死後、かつて自分が憧れていた長女を奪ったこの男を本当には憎んでいたのではないかと自問するあたりは興味深い。深層の真情を押し込め、ときに自分自身をすら欺くこころという怪物。

最後になってゼーノは自分は健康だと確信し、もはや精神科医による治療の必要性を認めない。やがて世界大戦が勃発し、荒廃した人間社会を人体の病気になぞらえ、ペシミスティックな考察をして小説は終わる。この結末部分がやや突飛で、あっさりした終わりかたに拍子抜けする。

B000JB4TPM世界文学全集〈第32〉ズベーボ,ホフマンスタール―20世紀の文学 (1967年)
集英社 1967

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