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zoom RSS 『プルーストの花園』 マルト・スガン=フォント

<<   作成日時 : 2010/01/29 22:57   >>

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プルーストの詞画集。

『失われた時を求めて』の著者であるプルーストは、作品のなかでしばしば花について言及している。ドイツのある批評家は、人間社会を動物界として見る作家と、植物界として見る作家に分け、プルーストを後者に分類しているという(訳者あとがき)。『失われた時を求めて』の主要登場人物はそれぞれにシンボルとなる花をもっていて(作者は「花の紋章」と呼んでいる)、語り手はそのイメージを用いて彼らを描写する。オデットのカトレアや、アルベルチーヌの薔薇がその例だ。
『失われた時を求めて』は語り手がコンブレーで過ごした少年時代の回想からはじまる。この長編小説を代表するエピソードのひとつに紅茶に浸したマドレーヌを語り手が口にしたとき、過去の記憶がまざまざと甦ってくる、というのがある。あまりに有名なエピソードだが管理人がはじめて読んだときは、コンブレーの教会をながながと描写した場面――ことに教会の壁に絡みついたツリウキソウについて描写した部分のほうが印象に残っている。読んでいた当時、こんなに細かいところまで主観的に書いた小説なのかと驚いたか呆れたかしてそれが印象的だったのかもしれない。第一巻である「スワン家の方へ」という文字を読むと、マドレーヌやスワンとオデットの恋よりも、コンブレーの教会や父親の遺影のまえで情事に耽るヴァントゥイユ嬢のことが咄嗟に連想されるのは、読者それぞれがそれぞれの仕方で小説を読むことを教えてくれる。

本書は作者のマルト・スガン=フォントがプルースト作品から花について言及した文章を集め、それに彼女自身の水彩画を添えたもの。さまざまな洋花が淡い色彩で描かれていて、とくに白やピンクを基調とした花のページは上品な気分にさせてくれる。『失われた時を求めて』は官能的な喜びを与えてくれる小説で、色とりどりの花びらの奥に雄蕊や雌蕊をむきだしにして花粉を運ぶ昆虫を待つ花というモチーフも考えてみるときわめてプルースト的という気がする。

プルーストのファンならば買いかもしれないが、『失われた時を求めて』未読の読者のための入門書とはならないだろう。それならば集英社文庫の抄訳版や、またはアラン・ド・ボトンによる『プルーストによる人生改善法』のほうが適している。装丁が凝っているが表紙が分厚くて読みづらいのが難点。原書の体裁をそっくり再現するために印刷、製本はフランスで行われたと訳者あとがきで述べられているけれども、そこまでこだわらなくてもよいのではないか。

4087733017プルーストの花園
マルト スガン=フォント
集英社 1998-10

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408760425X抄訳版 失われた時を求めて〈1〉 (集英社文庫)
Marcel Proust
集英社 2002-12

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プルーストをこんなにおもしろおかしく紹介する本もあまりないだろう。
4560046646プルーストによる人生改善法
Alain De Botton
白水社 1999-01

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『マルセル・プルーストの植物図鑑』
初恋の薫りをはこぶサンザシの小径、カトレアに込められた愛の符牒、花咲く乙女たちと薔薇...。色とりどりの花が登場し、そこに小説にかかわるさまざまな意味が込められていることは、『失われた時を求めて』の多くの読者が気づくところである。 ...続きを見る
Proust+ プルースト・プラス
2010/01/30 10:17

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ごぶさたしております。以前、『消え去ったアルベルチーヌ』でコメントを投稿させて頂きました。

私も、『プルーストの花園』を読みました(というより鑑賞しましたか?)。『失われた時』を読んだときに「ずいぶんいろんな花が登場するんだな」と思いつつ、花のことはほとんど知らないので、適当に読み飛ばしていたのですが、その花がどんな色でどんな形なのかが分かると、小説で感じたイメージがまた変わって面白いですね。願わくは、匂いも知りたいところですが。

『プルーストによる人生改善法』面白そうですね。今度読んでみようと思います。epiさんが紹介される本には興味をひくものがとても多く、目が離せません。
proust+
URL
2010/01/30 10:16
>proust+さん

コメントありがとうございます。
この本はプルーストのファンのための贅沢なアイテムですね。こういう上品そうなのがプルーストのイメージなのかもしれませんが。

『プルーストによる人生改善法』はタイトルがアレですが、とてもよい本です。ハウツー本の体裁で、プルーストの人と作品を紹介します。著者はよくプルーストを読み込んでいます。『失われた時を求めて』を読んだ読者ならきっと楽しく読めると思いますよ。
epi
2010/01/31 00:06

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